・短編D・

□甘い朝
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――ピピピピ ピピピピ



控えめに聞こえてくる目覚ましの音。
寒くて眠くてその音が聞こえないように布団に潜ってからあることに気づいた。



「うぅ・・・さむい・・・」



静かに布団から出て相変わらず控えめに鳴っている目覚ましを止める。

時刻は5時過ぎ。
隣にはまだ眠っている恋人。



「用意、しますか」



個人での仕事が多くなった。
それにつれて一緒にいる時間が減って。

不満がないと言えば嘘になるけど、不満だけなんてことはない。
ももが頑張ることでベリーズが有名になるなんてすごい嬉しいことなんだから。

それに一緒に過ごす時間が減ってから、みやが頻繁に泊まりに来てくれるようになった。
それだけでももは頑張れる。



「後10分・・・」



全ての準備が終わってもう出れる状態。
時計を確認するとまだ時間に余裕があった。

自然と足は寝室に向かう。



「ふふっ、可愛い・・・」



少しでもみや分を充電しておこう。
そう思い、しゃがんでみやのあどけない寝顔を観察する。

すると、もぞもぞとみやが動いた。



「ん・・・もも・・・?」



「あ、起こしちゃった?」



悪い気もするけど嬉しい気もする。
どうせなら話したいし。

そう思ってのそのそと起き上がったみやの顔を覗き込むと、なにか言いたそうにこっちを見られた。



「どうしたの?」



「・・・・・・もう、行っちゃうの?」



ぐー・・・・・・なにこれ可愛い・・・。

衝動に負けてみやの頭を抱えるように抱き締める。
大人しくももの腕に収まったみやに、更に心を撃ち抜かれた。



「行きたくなくなってきたなぁ・・・」



そう小さく呟いてから腕の力を緩めて顔を見る。
まだ寝ぼけてるような顔のみやは、ちゅっと可愛い音をたててキスをしてきた。



「もうさぁ・・・」



我慢しろって無理だって。

唇に軽いキスを返してから、おでこ、まぶた、ほっぺ、そしてまた唇に深いキスを。



「ふぁ・・・んっ・・・は、ぁ・・・」



「行くのやめよっかな・・・」



そんなことできないことはわかってる。
だけど、そう思ってしまうくらいに甘い時間。
キスを終えてボーッとしてるみやの顔を見てると、なんて幸せなんだろなぁって。
自然とみやを押し倒そうとする手が伸びていく。



――ぱちっ



「へっ?」



「だーめ」



みやの両手に挟まれてるほっぺ。
目の前には意外としっかりした表情のみや。



「ちゃんと、ベリーズ、売り出してこい」



まだ赤いままの顔で言われる。

・・・・・・うーん、敵わないなぁ。



「はいはい」



苦笑、苦笑、苦笑しかできない。
少しでもバカなことを考えたももが悪かった。

そう思って時計を見る。



「・・・・・・うぁぁあああああ!!」



「うわっ、なっ、なにっ!!」



「ちっ、遅刻するっ!やばいやばい!もう行かなきゃ!!」



いつの間にか家を出る予定から10分が経っていた。
慌てて鞄を持って玄関に向かう。



「も、ももっ!」



「はい!なに!」



ブーツを履くのに少し手間取ってからドアを開ける。
その寸前に後から追っかけてきたみやに呼ばれて振り返る。



――ちゅ



「・・・・・・行ってらっしゃいのちゅー」



なんで・・・こんな時に・・・そんな・・・可愛いことを・・・。



「もも!もう項垂れてる時間ないよ!」



「みやのせいでしょーが!帰ってきたら何倍返しにもしてやるんだから!!行ってきます!!」



外に飛び出してからもみやの赤い顔がやけに脳裏に浮かぶ。



「あーもう!頑張るぞっ!!」



体の中にたまってしまった熱。
それをどうにかしてくれるのはみやしかいない。

だけど、今はどうしようもない。

その熱を少しでも冷ますために冷たい空気を思いっきり吸った。



end

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