・短編D・

□二人なら
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さみー、さみー。

冬は寒いなぁ。

冬だから当たり前かぁ。



でも寒い理由はそれだけ?

他になんかあったっけ。



本当は知ってる。



寒い理由。



「・・・・・・一人は寒い。」



こんな真夜中に一人公園のベンチで何してるのかって。

誰かを待ってる。
誰でもいいんだけど、誰でもよくない。
本当はその『誰か』は決まってるんだ。



「まーいーみー。」



ここに呼び出してるわけじゃないし約束なんかしてない。
だから来るわけないのわかってる。

でも、来てほしくて。
舞美の家の近くの公園に待機してるわけで。



「これで本当に登場したらあんたはヒーローだ。」



来ないかなぁ。

来てほしいなぁ。

でも本当に来たらなんて言おうかなぁ。



「あれ?みや?」



「・・・・・・ヒーロー現る。」



本当に来ちゃった。

待ちわびた声の持ち主は数歩先で不思議そうな顔をしてる。
あたしがここにいる理由がわからないみたいだ。



「家出したの?」



「・・・・・・ねぇ、あたしのこといくつだと思ってんの?」



「だってみや、昔から家出した時はここにいた。」



うーん、確かに。
でも家出じゃない。
だけど家出と同じような気持ち。

つまり、探さないでほしいけど見つけてほしい。



「あげる。」



少し黙っていたらいきなりそう言ってなにかを差し出された。
暗くてよく見えないそれを目を凝らして見てみる。

缶ジュースだ、ココアの缶。



「買ったのさっきだからまだ温かいよ?」



ニコニコ。
そんな擬音が聞こえてきそうなほどの笑顔。

ここは有り難く貰っておこう。



「って、つめたっ!!」



「あははは!みや引っ掛かったー!」



「はっ?ちょ、意味わかんないんだけど!」



受け取った缶はそれはそれは冷えっ冷えで。
温かいのが冷めたとかじゃなくて正真正銘の冷えた缶で。



「さっき間違えて買っちゃったんだよね。」



あたしの隣に座りながら、まださっきのようにニコニコしている舞美。
なんでこんなに悪気が無さそうな顔が出来るんだか・・・。
ため息をついて舞美に冷たい缶を返す。



「・・・・・・自分で飲め。」



そんなあたしの言葉に対する舞美の笑い声の後、プシュっと音が聞こえてきた。

こんな寒空の下でよくあんな冷えたものが飲めるな。



「あげる。」



そんな声と同時にピタッと頬に何か固いものが押し付けられる。
冷たいものかと思って一瞬ビクッとなったけど違った。
今度こそ本当に温かいココアだ。



「・・・・・・ありがと。」



なんだ、さっきのは冷たいのじゃなくてこれか。

と思ったのも束の間。
温かいのは明らかに開ける前で。
舞美を見るとさっきの冷たいのを震えながら飲んでいた。



「ばーか。」



「え?」



一人で格好つけるなっつーの。

温かいのをプシュっと開けて一口飲んでから舞美に押し付ける。
よくわからないままそれを受け取った舞美から冷たいのを奪い取ってそれもグイっと飲んでやった。



「さっむ!!つめた!!」



「だから温かい方あげたのに。」



「うるさい!二人で飲めば寒さ半減でしょ!」



バカだなぁ、とでも言いたそうな舞美の苦笑にそう言い返す。

二人でいるだけで寒さは減るんだ。
二人で何かをすればそれ以上に減るに違いない。



「これ飲んでる時点で寒さ倍増してるけどね。」



「・・・・・・うるさいな。」



そんな会話をしながらも温かい缶と冷たい缶を交互に飲み干してくあたし達。
寒いのを飲んで震えて、温かいのを飲んでホッとして。

ようやく飲み終えた。



「・・・・・・寒かった。」



「暖まるために買ったのになぁ。」



そう言って困ったように笑う舞美に、あたしは心の中で言い返す。

舞美がいるだけで一人の時より大分温かかったけどね、と。
直接言うには恥ずかしすぎるから心の中で隠すように。



「・・・・・・帰ろ。」



「あたしの家に?」



「うん。」



「やっぱり家出だ。」



「違うってば。」



こんなくだらない会話も、二人だから温かい。



end

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