・短編D・

□愛のことば
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限りある未来を搾り取る日々から

脱け出そうと誘った。


みやは何を考えているのか、なにも訊かずに『うん』と言った。



―――――――――――――



「きっれー!!」



「みや、走ったら危ないよ。」



先に行ってしまったみやを追いかける。
すぐ追い付いてみやを見ると、みやの目には海が映っていて。



「もっと近く行く?」



「うん!」



思わずそう言うと嬉しそうに頷かれた。

みやはいつも通り。
いきなりのこの誘いになんの疑問も抱いてないはずはないのに。
仕事だってあったはず、あたしもあったのだから。

それでも何も訊かない何も言わないのはみやの優しさなのだろうか。



「ここって舞美んちで観た映画に出てきた道?」



歩きながら言われたその言葉に少し記憶を探る。
確かにこんな風な道はあったけど、ここではないだろう。
だってあれは日本の映画ではなかった。



「多分、ここじゃないと思うよ?」



「えー、本当?」



「あはは、本当。」



どこか不満げなみやに笑みが零れる。
すると不満げだったみやも柔らかく笑った。


こんなくだらない会話で安らげるのは愚かなのかもしれない。
だけど、その愚かさこそが何よりも宝物で。



―――――――――――――



砂浜まで行って遊び出すあたしたち。
砂でお城を作ったり海の水を掛け合ったり。
生温い空気が漂う今は、そんな水が冷たくて気持ち良かった。



「疲れた。」



「うん、でも楽しい。」



「・・・・・・舞美、大丈夫だよ。」



「え?」



「泣きそうな顔してる。」



いきなりのみやの言葉。
一瞬驚いて固まったけどあたしを見つめるみやを見た瞬間悟った。


結局みやはわかってたのだ。
あたしが自分を救ってくれる『愛のことば』を探してたことを。



あたしが泣きそうな顔になったのは『愛のことば』を見つけたから。
みやはそれに気づいててもう大丈夫だろうとあたしに声を掛けたのだ。



「帰ろう?」



あたしにとっての『愛のことば』、それはみやがくれる全ての言葉。

空から差し込む光に照らされてるみやに頷いて、強く強くその細い体を抱き締めた。



end

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