・短編D・

□お互い様の考え
1ページ/1ページ




「もうすぐ冬だね。」



仕事終わり。
明日は二人とも一日オフということで、舞美ちゃんがあたしの家に泊まることになった。

そんな二人だけの帰り道、だんだんと気温が下がっている空気に触れてそんな言葉が口をついて出る。



「うん!」



いつも通り、だけどいつもより少しだけ嬉しそうなニコニコ顔。
そして少しだけ弾んだ声。



「舞美ちゃん冬好き?」



返事の様子からそう訊いてみると、前を向いたまま舞美ちゃんが話し出す。



「好きだよ!汗そんなにかかなくて済むもん。」



へへっ、と笑う舞美ちゃん。
でもあたしは、数時間前のレッスンで夏とほとんど変わらない量の汗を流してた舞美ちゃんを知ってる。



「ふふっ」



「あ、今愛理『夏とそんなに変わんない』って思ったでしょ!」



思わず笑い声が漏れると舞美ちゃんが素早く反応した。
不貞腐れたようにツンっと突き出された唇を見て更に笑みが零れる。



「バレちゃった?」



「むー・・・愛理酷いよぉ。」



「んふ、ごめんね。」



笑いが止まらないのは舞美ちゃんのせい。
こんな些細な時間も、こんなにもたくさんの幸せを感じさせてくれる舞美ちゃんのせい。



「あたしも冬好きだよ。」



未だに唇を尖らせてる舞美ちゃんの手を握ってそう言う。
そういえば今日は握るタイミングを逃してしまってたんだった。



「こうやって舞美ちゃんといっぱいスキンシップとれるから。」



そう言って微笑みかけると、一瞬キョトンとしてから笑いだす舞美ちゃん。

・・・・・・舞美ちゃんがなに考えたのかわかった。



「『冬じゃなくても年がら年中スキンシップだらけだ』って思ったでしょ。」



「あは、バレたか。」



「舞美ちゃんも酷いじゃん。」



拗ねてることをわからせるため、わざと頬を膨らませる。
すると、舞美ちゃんはあたしの頭を撫でながら口を開いた。



「酷くないよ。だってあたし、愛理にくっつかれるの好きだもん。」



可愛い。
3つも歳上の彼女に、頻繁にそんな気持ちを抱くようになったのはいつからだったろうか。
今だって、昔のあたしだったら舞美ちゃんに格好良いと感じて照れていただろう。



「ありがと。あたしも舞美ちゃんの汗好きだよ。」



「え?・・・って、わ!あ、愛理!人前!」



でも今は違う。
何をしても可愛くて、あたしを撫でながら照れ笑いをしてる舞美ちゃんが可愛くて、あたしの行動にいちいち慌てる舞美ちゃんが可愛くて。



「大丈夫。あんまり人いないし、暗いから見えないよ。ちょっとぎゅーってさせて?」



甘えた声でそう言うと、舞美ちゃんが何も抵抗できなくなるのを知ってる。
知りながらこんな声を使うあたしは少しズルいかも。



「うー・・・・・・愛理の家まであと少しなのにー・・・。」



そう恥ずかしそうに言いながらあたしの腰に腕を回してくれる舞美ちゃん。
恥ずかしくて文句を言ってるけど、結局満更でもないんだと思う。



「舞美ちゃん可愛いね。」



「あ、愛理のが可愛いっ!」



「ふふ、可愛い。」



「もー・・・。」



不満そうな声。
そんな声に『あと少し、あと少し』と繰り返す。

そう言うたびに舞美ちゃんの力がちょっとずつ強まって、自然と笑みがこぼれた。



end

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ