・短編D・

□予想になかったパターン
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どうしたんだろ・・・・・・愛理が怒ってる。



久しぶりに℃-ute単独の仕事。
楽屋に入って隅で書き物をしてる愛理を見た瞬間、まず思ったのはそれだった。

ホンの些細な変化。
多分、あたしじゃないと気づかないような変化だろう。



愛理は確かに怒っていた。



「おはよリーダー。どうかした?」



入り口のすぐ側に座ってたなっきぃに声をかけられて、知らぬ間に固まっていた体の緊張がほどけた。
一息ついてからなっきぃの隣に座る。

愛理の近くに行かなかったのは、本能的な判断だろう。



「ううん、おはよう。」



なんとか平静を装って笑顔を作る。
ちょっと不思議そうな顔をしたなっきぃだけど、特になにか気にすることもなくまたケータイをいじり始めた。



さて、ここからが問題だ。

1、愛理のところに行く。
2、なっきぃと話す。
3、様子を見る。

一番無難なのは『3、様子を見る』だ。
だけど、その場合いつのタイミングかはわからないけど絶対愛理が『なんであたしのとこ来なかったの?』って聞いてくるだろう。
そして、いろいろ言い訳をしようと試みても嘘はつけない。

結局、

『なんであたしのとこ来なかったの?』→『愛理が怒ってると思った』→『なんで怒ってるかわかる?』→『わかんない』→『じゃあお仕置きだね』→ゲームオーバー

だ。

ということは、必然的に『1、愛理のところに行く』に決定。
2なんて選んだ日には、

『ねぇ、なっきぃ』→『なに?どうし『舞美ちゃんちょっとおいで』→ゲームオーバー

の最短コース。



「・・・・・・・・・よし。」



そろそろ行こう。
あんまり悩んでたら様子を見るのコースになってしまう。

気合いを入れて立ち上がる。
そのままの勢いで愛理の方へ。



「・・・・・・・・・なっきぃ。」



すると、あたしが近づいて来るのを気づいた愛理はなっきぃに声をかけた。
なんだろ、と思って愛理の目の前に立ったまま首を傾げる。



「はーい?」



「ちょっと席外してもらってもいい?他の二人も入れないようにしてもらえると有り難いんだけど。」



「・・・・・・はーい。」



よく読めない展開。
最初は渋ってたなっきぃも、愛理の黒いオーラに気づいて文句を言わない。
しぶしぶ楽屋を出ていったなっきぃを見届けた後、愛理は楽屋にしっかり鍵をかけた。



「さてと。」



今度は何が始まるんだ。
さっきからずっと同じ場所で黙り込んで立っているあたし。
そんなあたしの手を引っ張って、愛理はソファーに近づく。



・・・・・・・・・あれ、これもしかして



と思った瞬間反転する視界。
どうやら気づくのが遅かったみたいだ。



「舞美ちゃん久しぶり。」



にっこり笑われる。
だけど、やっぱりなんか怒ってる。
怒ってる訳を聞かなきゃ。



「あ、あいり・・・えと、どうして・・・怒ってるの・・・?」



「・・・・・・・・・なんでいつもみたいに焦んないの?」



「え?」



あたしの質問には答えないで、ショックを受けたようにそう言う愛理。
正直、何が言いたいのかわからない。



「他の誰かにこういうことされて慣れた?」



「なに、言ってるの・・・?」



「・・・・・・ごめん。」



今まで聞いたことのないような強い口調。
それに驚きながらも言葉を返すと、愛理は我に返ったような反応をした。

仰向けになってるあたしの上から、優しくぎゅっと抱き締める愛理。
それはなんだか切羽詰まっているような感じで。



「愛理・・・?」



名前を呼ぶ。
少し遅れて反応がくる。



「違うの・・・ごめんね、舞美ちゃんは悪くない。あたし、まだまだ子供なんだ・・・。」



なんて言えばいいかわからなくて、とりあえずぎゅっと抱き締め返す。



「一緒にいれなかったから不安になって、ブログとか見たら色んな人と仲良くしてて、勝手にヤキモチ妬いて変なこと言った。」



ごめんね、とまた言ってあたしの上から退いてソファーに座り直す愛理。
もうすっかり黒いオーラは消えて、しょんぼりしてた。



「愛理、あのね・・・」



「うん?」



「さっき焦んなかったのはね・・・・・・多分、あたし、期待してたからだと思う。」



あたしも愛理の隣に座り直す。

恥ずかしいことを言ってるのはわかってる。
だけど、本当のことを言って愛理を安心させたい。

あたしには愛理しかいないのだということを。



「最近あんまり会えなかったし、その・・・・・・全然してなかった・・・でしょ?だから抵抗する気とかなくて受け入れてて・・・」



語尾が小さくなる。
それと一緒に顔が赤くなって。



「・・・・・・舞美ちゃんっ!」



愛理が抱きついてくる。
すごい恥ずかしかったけど、愛理が喜んでるのがわかって安心。

やっぱり自分の気持ちはしっかり言った方がいい。
愛理がこんなに喜んでくれるんだもん。



「あ、でも今日はこれから仕事、だし・・・・・・愛理・・・?」



「ん?」



いつの間にかさっきと同じ体制。
ちょうど説明しようと思ってたのに。

とりあえず今はダメだ。



「あ、ああああのねっ!だだだだだからっ!!今から仕事っだしっ!!」



「さっき舞美ちゃんしたいって言ったよね?」



「い、言ったけどねっ、今はダメだよっ?ほら!楽屋の外にみんないるかもしれないしっ!」



「あぁ・・・・・・じゃあ声はあんまり・・・いや、聞かせてあげよっか?あたしの舞美ちゃんだってわからせるだめに。」



にっこりと笑う愛理。
今度はちゃんと楽しそうに笑ってる。
だけどいつもの無邪気な笑顔じゃなくて。

いや、愛理が楽しそうなのは良いことなんだけど・・・。



「ふふ・・・いただきます。」



いろいろ考えたけど、考えるだけ無駄だと思った。
だって既に愛理はスイッチ入っちゃってるし。

あたしが今一番気にしなきゃいけないのは、どうやったら声が最小限に抑えられるかということだった。



end

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