・短編D・

□理解できない状況
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・・・・・・・・・・・・なんだ、この状況。



「雅はれなとおるけんね!さゆは鞘師といればいいっちゃん!」



「だってりほりほ今いないもん。それになんでれいなが勝手にそんなこと決めてんの?」



「勝手じゃない!雅もそう言っとるけん!」



「言ってないし、むしろさゆみと一緒にいたいって言ってるし。」



「あの・・・・・・あたし楽屋戻りたいんですけど。」



両側から引っ張られながらそう訴える。

ただ、田中さんに借りてたCDを返しに来ただけだった。
それなのに気づけばこの状況。
愛佳は休養中だし、新垣さんは寝てるし、9期はどっか遊びに行ってるし。

つまり、助けを求める相手がいないのだ。



「えー!ほら、さゆが思いっきり引っ張りよるから帰りたいって言い出したやん!」



「はぁ!?それはれいなでしょ!ヤンキーなんだから!」



とりあえず二人とも離せ。
と言いたいけれど、一応年上だ。
たとえあたしのが先輩だと言っても、そんな言葉遣いなどしていいはずがなくて。



「・・・・・・あの、わかりました、二人とも一緒にいればいいじゃないですか。」



妥当でしょ、これ。
あたしもどっちかとか選ばなくていいし、二人も取り合いとかしなくていいし。
これを拒否されたらあたしはもうどうすればいいか。



「・・・・・・さゆには渡せん!!」



「れいなになんて渡せる訳ないじゃん!!」



・・・・・・・・・あぁ、そーですか。
じゃあもうあたしにはどうしようもないです・・・。

脱力。
脱力中の脱力。

だけど、いろいろと諦めてそんな状態に陥っていると後ろから誰かに抱き締められた。



「なーにやってんだよぉ。」



聞き慣れた声。
体に馴染んでる感触。
有り得ないと思いながらもおそるおそる振り返ってみると、有り得ないと思っていた現実があった。



「絵里!?なにしとぉ!?」



「なっ、なんで楽屋に絵里がいるの!?」



「なんでじゃないっ!絵里の雅になにすんだよぉ!」



・・・・・・・・・本当に本物だ。
本物の亀井さん。
付き合ってるにも関わらず、もう二週間くらい会ってなかった亀井さん。



「絵里のとか許さっ・・・・・・・・・・・・今日は・・・許す・・・。」



「・・・・・・そうだね。雅ちゃんにこんな表情されちゃ阻止できないし。」



あたしは今、どんな表情をしてるんだろう。
よくわからなかったけど、後ろから回されてる亀井さんの腕をギュっと掴んでるのはわかる。
離れないように、ギューっと。



「雅ぃ、なにそんな顔してんだよぉ。」



気づけば、田中さんと道重さんは近くにいなかった。
気を利かせてくれたらしい。



「あたし・・・どんな顔ですか。」



「んー・・・・・・泣きそうだけど顔赤らめてて、寂しそうだけど嬉しそー。」



「・・・・・・よくわかんないんですけど。」



「うん、絵里もよくわかんない。だからさ、とりあえず正面から見させてよ。」



『なんでここにいるんだ』とか『二週間もなんで会いに来なかったのか』とかいろいろ訊きたいことはあったけど、正面から見た亀井さんがなんだかすごい嬉しそうだったから許してあげた。

その代わり、会えなかった分だけぎゅっと抱き締める。



「わお、雅のくせに積極的ぃ。」



「・・・・・・・・・ちゃんと見ておかないと浮気しますよ。」



全く反省の色が見られない亀井さんに、少しむっときてそう言う。
すると、思いがけない反応が見られた。



「・・・・・・・・・だめ。ていうかさっきとかもさ、無防備すぎだった。さゆとかれーなとか危ないんだから気を付けてよ。」



あたしよりむっとしてるような亀井さんの言い方。
唇も尖っている。

そういうこと気にする人だったんだ。

初めて垣間見た恋人の嫉妬に、少し機嫌が直る。



「亀井さん以外にはこーゆーことしませんよ。」



顔を覗きこんではにかむあたし。
尖らせてた唇を引っ込ませて笑う亀井さん。



「今日雅んち行く。」



「変なことはさせませんよ。」



「え。」



「・・・・・・・・・嘘です。」



end

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