・短編B・

□そんな表情はズルい
1ページ/1ページ




なんでいじけてるんだ、この人は。

午前中で仕事が終わったから、一日中休みだという舞美の家に来た。
なのに、そこにはふくれっ面な舞美の姿。

いつもなら、ニコニコしながら飛びかかってくる勢いで話しかけてくるのに。



「・・・・・・・・・。」



この通り無言。
しかもあたしの真正面に体育座りで座って俯いてるし。



「舞美。」



ずっといじってた携帯を置いて、舞美に呼びかける。
ビクッと反応した舞美は、恐る恐る顔を上げた。



「・・・・・・・・・。」



また無言。
なんでこんな状態になってんだろ。
あたしなんかしたっけ?



「なんで黙ってんの?」



無言の舞美に、ちょっと不機嫌な声が出てしまった。
そんなあたしの声を聞いた舞美は、眉を八の字にして口を開く。



「みや・・・・・・好きだよ?」



・・・・・・・・・なに言ってるんだ、この人。
こんな流れじゃなかったはずなんだけど。
顔が熱くなるのが自分でもわかった。



「いや、うん・・・・・・それはわかったけど。」



赤い顔を手の甲で隠しながら舞美を見る。
そこには不安そうな顔をしている舞美。



「・・・・・・・・・でもさ、みやは・・・・・・」



そう言いかけてまた俯く舞美。

舞美が言いたいだろうことはわかったけど、なんでそんなことを言い出そうとしてるのかわからない。

あたしは間違いなく舞美が好きなのに。



「でもってなに。あたし、舞美のこと好きだけど。」



うわ、勢いで言っちゃった。
めったに聞けないあたしからの好きを聞いて、ちょっとにやけてる舞美。
どんだけ単純なんですか。



「だってみや、なんかみんなから好かれてるし・・・・・・、みやも満更じゃなさそうだし・・・・・・。」



そう言いながらも、さっきの言葉で機嫌を良くしたらしい舞美は、あたしの隣に座ってくる。
・・・・・・・・・何故か正座だけど。



「そりゃ好かれたら嬉しいよ。あたしもみんな好きだし。」



「えっ!!」



「でも、あれじゃん・・・・・・舞美に対する好きとは違うしさ・・・・・・だから、その・・・・・・、」



目を逸らしながら話してたら、舞美が覗き込んで来るようにキスをしてきた。



「ダメだよ、みや・・・・・・。」



「はぁ?急に何してんだバカっ!」



舞美の顔を手でぐいっと押し返しながら非難する。
でも舞美はその手を掴んで近づいてきた。



「だって・・・・・・みや、可愛すぎるんだもん。」



そう言ってあたしの耳に唇を落とす舞美。
あたしの体温は一気に上昇する。



「ちょっ、まい・・・みっ・・・!!」



いつの間にか正座じゃなくなっていた舞美に押し倒されそうになった。



「梨沙子のことは好き?」



「はっ?そりゃ好きだけど・・・!!」



それに精一杯抵抗しながら答える。
多分さっきの話に戻ったんだろう。



「ももは?」



「まぁ・・・・・・好きだけど・・・・・・。」



なんかももの場合口に出すのは悔しい。
そんなことを思って少し気が抜けた隙に、完全に押し倒されてしまった。



「佐紀は?」



「好き、だけど・・・・・・。」



諦めて力を抜く。
ここまで来たらもう無駄な抵抗だし。



「じゃあ、あたしは・・・・・・?」



・・・・・・・・・舞美はズルい。
そんな不安な表情されたら、普段絶対に言わないことでも言いたくなっちゃうじゃんか。



「・・・・・・好きなんて、とっくのとうに超えてるっての。」



あたしがそう言うと、舞美は表情を一変とさせる。
まばたきをした次の瞬間にはいつも以上のニコニコ顔。

そんな舞美に呆れながら、あたしは目を閉じた。



舞美が近づいてくる気配を感じて、ちょっと笑ってしまった。



end

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ