・短編B・

□ライバル宣言
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・・・・・・来た。

トントンと控えめのノックの後にドアが開く。
そして、その人物は恐る恐る楽屋内を見渡し、舞美ちゃんを見つけて声をあげた。



「矢島さん!」



その人物とは同い年の後輩、スマイレージの前田憂佳。

ダジャレが好きだったり、スマイレージのエースだったりで何かとライバルだと思ってる。

しかし、一番重要なことは。



あたしの恋人を狙ってること。



「あ、前田ちゃん!」



イスに座ってた舞美ちゃんは、憂佳ちゃんを見つけると嬉しそうに笑いながら近くへ行った。

・・・・・・・・・そんな嬉しそうな顔をしないでほしい。



「遊びに来ちゃいましたー。」



はにかみながらそう言う憂佳ちゃん。
そんな憂佳ちゃんの頭を舞美ちゃんが撫でている。

・・・・・・・・・そしてあたしは更に拗ねる。

他のメンバーと話そうと思っても、今は買い出しに行ってて誰もいないし。



早く帰ってこないかな。
ていうか、舞美ちゃんがあたしを放置するのがいけないと思う。
そりゃ後輩も大事だけどさ、恋人の方が大事でしょ?



「・・・・・・・・・うわ、嫌な女。」



独り言のように呟く。
自分で考えてることに自己嫌悪。

舞美ちゃんが絡むと、すぐ嫌な自分が出てきてしまう。

今だって。
舞美ちゃんと憂佳ちゃんの笑い合ってる声が聞こえてきて、早く帰ってほしいと思ってる自分がいる。



「たっだいまぁ!!」



「買ってきたよー。」



「2人ともあたしに持たせないでよっ!」



そんなことを思っていると、賑やかな声が聞こえてきた。
千聖達が帰ってきたんだ。

そっちの方に目を向けると、千聖が勢いよく入ってきすぎて憂佳ちゃんにぶつかりそうになっていた。



「あっ、ぶないっ。」



すると、舞美ちゃんが憂佳ちゃんの腕を引っ張って引き寄せる。
そのまま、舞美ちゃんの胸の中に入って行く憂佳ちゃん。



「大丈夫?こら、ちっさー!」



「あ、ありがとうございますっ。」



「ごめーん!」



憂佳ちゃんと抱き合ったままの舞美ちゃんと、舞美ちゃんにお礼を言う憂佳ちゃんと、謝るちっさー。

はっきりと見えてたはずの景色が、なんか滲んできた。



「愛理どーしたの!?」



思わず泣いてしまったあたしに気づいたなっきぃが、驚いて声をあげた。
その声にみんなあたしを見る。



「愛理っ?」



そして、舞美ちゃんが一目散に駆けつけてきた。
でもあたしの前に立ってオロオロしてる。
多分、みんな見てるから何もできないんだろう。

そんな舞美ちゃんが気にくわない。
こんな時くらい、大胆になっていいと思うんだ。
抱きしめるくらい・・・・・・してほしい。



「・・・・・・・・・舞美ちゃん。」



涙を拭って舞美ちゃんに声をかけた。
泣いてても何も始まんない。

憂佳ちゃんを含めた周りのみんなが、あたし達を見てるのがわかる。



「あ、愛理、どーしたの?」



「・・・・・・・・・ごめんね。」



「えっ?」



舞美ちゃんだけにしか聞こえないくらいの声で謝る。

そして、舞美ちゃんの体をグイッと引き寄せて口付けた。



周りの声なんて何も聞こえない。
ただ、全神経を舞美ちゃんとのキスにそそぐ。

最後に、舞美ちゃんの唇をペロッと舐めてから唇を離す。


舞美ちゃんの方を見ると、限界を超えた赤に染まっていた。

周りもポカーンとしていて、ちょうどいいくらいに静まっている。



「舞美ちゃんはあたしのだから。」



真っ直ぐと憂佳ちゃんを見据えて、そう宣言する。
そのあたしの言葉に、憂佳ちゃん以外のメンバーが驚いて声をあげた。

それに反応せずに、あたしはずっと憂佳ちゃんを見る。
すると、憂佳ちゃんは微笑んで口を開いた。



「憂佳、負けませんから!」



その言葉を聞いて、あたしも微笑む。

憂佳ちゃんとは本当に良いライバルになれそうだ。



真っ赤のまま停止してる舞美ちゃんを挟んで、あたし達はしばらく笑いあった。

嫌いなあたしは、もういなかった。



end

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