・短編B・

□感じる温もり
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雨が降ってる。
こんな日は、なんだか舞美に会いたくなる。





「・・・・・・・・・あたしバカだ。」



まぁ、わかってたけど。
でもここまでとは思わなかった。



「なんか言ってからくればよかった・・・・・・。」



そう、来てしまったのだ。
仕事現場から直接、舞美の家の前に。



しかも、舞美に何も言わずに。



「あー・・・・・・バカだ・・・。」



傘を差しながらその場にしゃがみ込む。
雨は防げるけど、やっぱちょっと寒い。
風吹いてるし。
今日結構薄着だし。



「・・・・・・・・・さむ。」



どーしよーな。
まだ19時だし、多分舞美は帰ってきてないと思う。
でも、ここまで来ちゃったし。

なんか、舞美の顔も見ないで帰るなんて勿体無いというかなんというか。



・・・・・・・・・会いたいし。



とりあえず雨が悪いと思う。
だって雨が降ってなかったら、こんな会いたいとか思わなかった。

いや、それなら元の原因の舞美が悪いんだろうか。
舞美が雨女だから。



「・・・・・・・・・なんだ、結局舞美が悪いんじゃん。」



「みっ、みやっ?」



あたしが呟いた直後に、なんか焦ったように上擦ってる天然バカの声。

傘をどかして見上げると、そこには頭の上にハテナをいっぱい浮かべてる舞美の姿があった。



「・・・・・・・・・よっ。」



なんて言うか散々迷って出たのがこの挨拶。
だって、会いたかったとか言うの恥ずかしいじゃんか。
どこの乙女だっての。



「えっ、あれっ?みやだよねっ?えっ、なんでっ?あれ?みやじゃないっ?」



・・・・・・いや、とりあえず落ち着こうか。
明らかにみやでしょ。
みや以外の何者でもないでしょ。



「あたしだよ。」



そう言いながら立ち上がる。
まぁ、立ち上がっても舞美のこと見上げてるのは変わんないけど。



「だよねっ!・・・・・・ど、どうしたの?」



あたしの全身を確かめるように見て、なんか嬉しそうに笑う舞美。

そして、やっぱりその質問をしてきた。



「・・・・・・・・・別にどーしたって訳じゃないけど。」



「けど?」



舞美はもごもごしてるあたしを促す。
その言い方は、からかってる感じじゃなくて純粋に訊いてる。

だから、タチが悪い。



「・・・・・・・・・雨、降ってたから。」



「うん?」



意味がわからないらしく、首を傾げる舞美。
・・・・・・・・・そりゃわかんないか。

この人、雨女否定してるし。



「・・・・・・・・・もういーよ。」



「え?」



なんか顔赤くなってきたし。

それを隠すようにうつむいてから、傘を閉じる。
そして、無理矢理舞美の傘の中に入った。



「・・・・・・・・・とりあえずさ、寒いから。」



そう言って舞美に抱きつく。

舞美のジャケットについてる雫のせいで、ちょっと冷たい。
でも、多分それは舞美も同じだろう。



「みや、ちゃんとタオルで拭かなきゃ。」



そう言いながら、舞美は傘を持ってない方の手であたしを抱きしめる。



確かに、寒い。

だけど、なんかちょっとあったかい。

これは舞美の愛情の温もりのおかげかな、なんて思ってるあたしはやっぱりバカなのかもしれない。



end

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