・短編B・

□全ては捧げられないけど
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どこ行ったんだ、あいつは。



事務所を駆け回ること約10分。

あたしはももを探していた。
いつものようにふらーっとどっかに行っただけなら、別に探したりしない。



だけど、多分あいつは怒ってる。



なんでかって、これが休憩時間とかじゃなくて仕事前の話だから。
あたしに何かを伝えたい時、ももはこういった行動を取るのだ。



「たくっ・・・・・・直接言えっての・・・・・・!!」



なんであたしがわざわざ探さなきゃいけないのか。
軽くイライラしながら、まだ行ってない屋上へ向かう。



多分そこらへんに・・・・・・あ。

いた。

屋上ではなく、屋上に向かう階段の踊場に。

体育座りでいじけてるももが。



「・・・・・・・・・楽屋帰るよ。」



ももが怒ってるのなんて知らない。
だって今、あたしもちょっと怒ってる。

それなのにももの反応ときたら・・・・・・。



「・・・・・・・・・やだ。」



あたしのことをチラッと見てから、すぐに目を逸らしてそう言う。

・・・・・・・・・ムカつく。



「なんで。撮影まで後10分しかないんだけど。」



「・・・・・・知らない。」



なんだこいつは。
あたしがいつ、こいつを怒らせたと言うんだ。
心当たりはない。

とりあえず仕事に遅れることは避けたいので、体育座りをしているももの腕を引っ張ろうとする。



「とりあえず行くよ。」



「やだっ!」



勢いよく手を払われる。
なんだこいつ、なんだこいつ、なんだこいつ!



「なに、あたし何かした!?」



ついに声を荒げてしまった。
だってももが意味わかんない。
触った手を払われるとか、相当ショックなんだけど。



「したよ!」



「なに!」



「昨日梨沙子と2人で遊んだんでしょっ!!」



「遊んだよ!それがなに!!」



「・・・・・・っ!みやのばかっ!!」



意味わかんない。
全然理解できない。
バカなのなんて知ってますけど。

・・・・・・・・・あぁ、もう。



「・・・・・・・・・もも。」



「なに・・・・・・。」



「なんで怒ってるかわかんない。」



バカだから、と心の中でつけたす。
口に出したら、ふざけるなってももがまた怒ると思うし。



「・・・・・・・・・だから、梨沙子と遊んだんでしょ?」



「うん。遊んじゃダメなの?」



「・・・・・・・・・ももはイヤだよ。」



・・・・・・・・・難しい。

別にダメって訳じゃないけど、イヤってことでしょ?

そんなの、どうやって対処すればいいんだ。



「ごめん。」



バカなあたしには謝るしか方法がない。
頭が良い人だったら、なんか色々考えてどーにかできるのかもしんないけど。



「・・・・・・・・・。」



ももには、あたしがとりあえず謝ってるってことがわかるんだろう。

返事はしてくれない。



「・・・・・・・・・あたしさ、もも以外の人とは遊ばないなんて言えない。」



だってまだ遊びたいお年頃だし。
もちろんもものことは好きだけど、もも以外を全部捨てるなんてできない。

あたし、バカな上にガキだからさ。



「・・・・・・・・・わかってる。」



「・・・・・・・・・でも!」



またももの腕を引っ張る。
今度は振り払われない。

そして、ももの腕をグイッと引っ張り上げて立たせる。



「その変わりに目一杯愛情表現してんじゃん。」



やっと立ち上がらせたももに、そう言いながらキスをする。



唇を離して時計を見ると、撮影まで後2分。

まだ間に合う。



「行くよ。」



さっきと同じようにももに声をかける。
もちろん腕も引っ張りながら。



「・・・・・・・・・ふふっ。」



「・・・・・・なに。」



突然笑い出すもも。
あたしはそれにふてくされたように返す。



「いや、みやの耳赤いなーって。」



・・・・・・・・・うるさいな。
恥ずかしいものは恥ずかしい。
ていうかこれは、自分で抑えられるものじゃないし。

それに。



「・・・・・・・・・ももだって赤いし。」




ボソッと呟くと、そんなのわかってるもーんなんて陽気な声が後ろから聞こえてくる。



掴んだ腕は熱かった。



end

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