・短編B・

□知らないこと、知りたいこと
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あたしとヤツは変な関係だ。

まず、いつ仲良くなったのかわからないし。
しかもそれくらい前から仲良いはずなのに、ヤツの家がどこにあるか知らない。
ちなみに言うと、ヤツはあたしの家に何回も来てる。

それに考えてみると、昔からヤツのクラスは知らない。
ヤツは毎日あたしのクラスに遊びにくるのに。

後、ヤツが何を考えてるのか全くわからない。
ヤツはあたしの考えてることをズバズバと当ててくるのに。

そしてヤツは一個下なのに馴れ馴れしい。


・・・・・・や、それはもう気になんないんだけど。



つまり何て言いたいのかと言うと、あたしはずっと前から仲の良いヤツのことをほとんど知らないってこと。
ヤツは知ってるのに。

急にそれに気づいて、なんか気にくわないのだ。




「佐紀ちゃーん!!」



今日もヤツが来た。
今は放課後で、あたしの教室にはあたししかいない。
そんなところに、ヤツ・・・・・・徳永千奈美が来たのだ。



「なに?」



「なにって、一緒に帰ろうよ!」



ニコニコ笑いながら、あたしの前の席に後ろを向いて座る千奈美。
・・・・・・・・・あたしが今なにしてるかわかんないのかな。



「今、あたし帰るって言うと思う?」



あたしは呆れたようにそう言う。
今なにをしてるって、受験勉強だ。
もうあたしは受験生なのだから。

それは千奈美もわかってるはずだ。



「思わないけどさー。・・・・・・じゃあ待ってる。」



・・・・・・やっぱりわかってるんじゃん。

千奈美は退屈そうに答えてから、ケータイをいじりはじめる。



・・・・・・・・・先に帰ればいいのに。



あたしにわかるように退屈そうにしている千奈美に少し腹がたって、そんなことを思う。

すると、千奈美が呆れたようにため息をついた。



「うちは佐紀ちゃんと帰りたいんだからね。」



・・・・・・・・・また読まれた。
あたしの方に目を向けないまま、当たり前のように言ってくる千奈美。

なんでそんなわかるんだ。
別にあたしがわかりやすい人間っていう訳ではない。
千奈美だけなのだ、あたしの考えてることをこんなに当てるのは。

なんか、すごい悔しい。



「・・・・・・・・・ねぇ、千奈美って何組だっけ。」



千奈美のことをわからないのが気にくわない。
それならば、直接聞けばいいんだ。

そう思って、走らせていたペンを止めて千奈美に質問を投げかける。



「・・・・・・さ、三組だけどっ。」



なんか慌ててるっていうか動揺してる千奈美。
急になんだ。

でもその表情は、心なしか嬉しそう。



「なにその反応。」



そんな千奈美の変な反応を見て、なんだか笑ってしまった。
すると、千奈美がなんか拗ねたように反論してくる。



「だって、佐紀ちゃんがうちについての質問するとかめっちゃ珍しいから。」



・・・・・・・・・そーだよね。
だって、あたし全然千奈美のこと知らないし。
それってつまり、千奈美に訊かないからで。

・・・・・・でもさ。



「千奈美から言えばいいじゃん。」



そうなんだ。
ちゃんと千奈美が教えてくれてれば、あたしがこんな悔しい気分にならなくてすんだのに。



「・・・・・・・・・訊いてほしいじゃん。自分から言わないでも、興味もってほしいじゃん。」



頬をほんのり赤くさせながら、そうぶつぶつ言ってる千奈美。



・・・・・・・・・あぁ、あたしが悪かったのかも。



だって今、こんなにも千奈美のこと知りたい。
なのに、ついさっきまではそんなこと思わなかった。



つまりあたしって、



「・・・・・・鈍感、だったり?」



「間違いなくね。」



あたしの考えてることがわかる千奈美は、あたしよりあたしに詳しいのかも。
あたしの気持ちがわかってたはずなのに、急かさずに気付くまで待ってくれてたんだ。

しかも、訊かれるまで待つというとても健気な感じで。



「なんか、今までごめん。」



そう思うと、なんだか急に悪いことをしてたような気になる。
つい謝ってしまった。

すると、千奈美は楽しそうに笑い出す。



「いや、気づいてくれただけですごい得した気分。」



「どんだけ鈍感だと思ってんの。」



「・・・・・・・・・佐紀ちゃんはそれだけのことしてきたよ。」



呆れたように言われた。
千奈美が言うならそうなのかもしれない。

そっか、と言ってから勉強道具を片づける。



「もういいの?」



「うん、ちょっと知りたいことがあって。」



あたしがそう言うと、千奈美が不思議そうな顔をする。
いつもあたしの考えてることをすぐに当ててくる千奈美がわからないとか珍しい。

そんなちょっとしたことが嬉しかったり。



「なにそれ?」



なかなか次の言葉を発しないあたしに、しびれをきらしたように聞いてくる千奈美。
そんな珍しい千奈美に笑いながら、あたしは答える。



「千奈美の家。だから今から行こ。」



左手にカバン、右手に千奈美の手を取ってあたしは歩きだした。

千奈美は慌てながらも、あたしに引きずられるようにしてついてくる。



そんな千奈美にまた笑ってから、あたしはさっき気づいたことをまだ口に出してないことを思い出す。



今まで待たせたお詫びとして、言ってあげよう。



そんなことを心の中で思ってから、千奈美の方へ振り返る。
すると、千奈美は笑いながらあたしより先に口を開いた。



「うちも好き。」



・・・・・・・・・まだ言ってないし。



「・・・・・・・・・あたしも好きだよ。」





やっぱり千奈美にはかなわない。



end

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