・短編B・

□子供な恋人
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紗季ちゃんは子供だ。





「あやめっちゃ可愛い!ちょーヤバい!」



今だって。
恋人の目の前で他の人をべた褒めするって何事ですか。
確かにお仕事の時は、それのおかげで現場が盛り上がったりするからしょうがない。

でも、プライベートっていうか舞台裏でもそんな感じって・・・・・・。



ただの当てつけにしか見えない。



「こーゆーのもいいかもよ!」



そう言って彩花ちゃんの髪に触れる紗季ちゃん。
今はなんか新しい髪型を考えてるみたいだけど。



・・・・・・・・・紗季ちゃんのバカ。



憂佳にヤキモチを妬かせようとしてるとしか思えない。
・・・・・・それは有り得ないけど。

だって、紗季ちゃんは子供だし。

憂佳もそういうとこ全部含めて紗季ちゃんのこと好きな訳だし。

・・・・・・・・・だけど。



「憂佳どうしたの?」



いつの間にか彩花ちゃんはいなくなっていて、憂佳と紗季ちゃんの2人きり。

紗季ちゃんは俯いてる憂佳の顔をのぞき込んでる。



「・・・・・・別に。」



紗季ちゃんに何言っても無駄だ。
こういうことに気づけるような大人になるまで待ってあげよう。



「へへっ。」



そんなことを考えてると、不思議そうに憂佳の顔を覗き込んでた紗季ちゃんが急に笑い出す。
なんか、いたずらっ子みたいな笑顔。



「なに?」



全然意味わかんない。
今ここで笑い出す意味が。
しかも不機嫌な憂佳を目の前にして。



「紗季わかってるよ。」



いたずらっ子のような笑顔のまま、そう言う紗季ちゃん。

一体何の話だろうか。



「何が?」



「憂佳が変な理由。」



変なって失礼な。
こう見えても憂佳怒ってるんです。

・・・・・・・・・ていうか、紗季ちゃんがそれに気づくなんて有り得ない。



「じゃあ言ってみて。」



そう思って、紗季ちゃんの言葉を促す。
わかるはずがないと思って。



「ヤキモチでしょ!」



え、あれ・・・・・・本当にわかってたの?
デリカシーのかけらもない紗季ちゃんが?



「ねぇ、当たり?当たりでしょ?」



ニコニコしたまま、憂佳の腕をブンブンと振り回す紗季ちゃん。
その姿は本当に子供みたいで、なんか呆れてくる。



「うん、だから憂佳怒ってるんだよ?」



小さい子に言い聞かせるように言う。
ちゃんとわかってくれないで流されるのも困るし。



「えー・・・・・・ごめん・・・。」



なぜだか拗ねたように謝る紗季ちゃん。
全く反省はしてないみたいだ。



「やだ。」



それならもちろん憂佳も許す訳にはいかない。
そう思ってそっぽを向くと、紗季ちゃんはちょっと焦ったような感じになった。



「ごめんね、憂佳。なにしたら許してくれる?」



・・・・・・・・・こういうところもまだまだ子供だ。
なんかしたら許してもらえると思ってる。

こうなったら、少し意地悪をしよう。



「なんでもしてくれるの?」



「うんっ!」



紗季ちゃんの方に向き直る。
すると、なんか嬉しそうに返事をする紗季ちゃん。
・・・・・・怒られてるってわかってるのかな。



「紗季ちゃんにできなそうなこと言うよ?」



「うー・・・・・・うん・・・。」



ちょっと迷った末に、渋々と返事をする。
自分から言い出したから断れないのだろう。

じゃあ言ってやろうじゃないか。



「キスして。」



ドキドキしながら紗季ちゃんの反応を待つ。

なんで憂佳がこれを言い出したのかというと。
憂佳たちは恋人らしいことをしたことがないからだ。
紗季ちゃんから告白してきたのに、手を出す素振りも見せない。

することといえば手を繋いだり電話したりと、他のメンバーともすることばかり。

いくら紗季ちゃんが子供だからって、そろそろ新展開を見せてもいい頃合なんじゃないかと憂佳は思うのだ。



そして、紗季ちゃんの反応はというと・・・・・・。



「はぁ?紗季そんなん余裕でできるし!」



そう言いながら近づいてくる紗季ちゃん。

えっ、うそっ、本当にっ?
紗季ちゃんって実は大人―――



ちゅ



「・・・・・・・・・・・・はぁ。」



ちなみにこれは憂佳のため息。
なんでため息かって、紗季ちゃんのキスは頬にするものだったからだ。



「なんでため息つくのっ。したじゃん、キス。」



「・・・・・・紗季ちゃん、ちょっと来て。」



不満げな紗季ちゃんを手招きして、近づかせる。



多分、憂佳がリードしてあげないとダメなんだろう。



そう思って、不思議そうにしている紗季ちゃんの唇にキス。

まぁ、まだ触れるだけだけど。



「恋人同士だったら、基本キスは口だよ。」



覚えといてね、と言うように固まってる紗季ちゃんの頭を撫でる。

その顔は正に真っ赤で、やっぱり紗季ちゃんは子供だなと思った。



end

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