・短編B・

□厄介な束縛
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最近、やっかいな後輩が3人できた。





「みや、例の一年生の内一人が呼んでる。」



同じクラスの茉麻が苦笑しながら言ってくる。

またか・・・。
てか一人って誰だ。
まぁ、いーや。



「・・・・・・・・・いないって言って。」



机にうつぶせたまま茉麻に告げる。
いちいちあいつらの相手をしてたら、体が持たない。

それなのに・・・・・・。



「みーーやーーびーーちゃーーんっ!!!!」



・・・・・・・・・そんなデカい声で呼ぶなっ!

あたしは渋々と3人の内の一人、千聖の元に向かった。



「・・・・・・なに。」



「えっ、なにっていうか、教室通ったから!」



3人の内一人、岡井千聖。
1―1。
普通にタメ口。
ちょっと天然。
3人の中だったらまだ扱いやすい。
めっちゃ犬っぽい。

・・・・・・あたしに懐いてる。



「通ったからって・・・・・・呼ぶ意味じゃん!」



「だって雅ちゃんと話したかったし・・・・・・。」



ショボンとする千聖。
・・・・・・・・・こーゆー顔に弱いんだ、あたし。



「別にいーけどさ・・・。デカい声で呼ばないで。」



「雅ちゃんが無視したからだもーん。」



何が楽しいのか、千聖はずっとニコニコしてる。
あたしは苦労ばっかりだというのに。



・・・・・・まぁ、なんか癒されるしいっか。



そんなこと思っちゃうあたしは疲れてるのかもしれない。



「・・・・・・とりあえず早く教室帰りなよ。」



あまり背が高くないあたしよりちっちゃい千聖の頭を撫でながらそう促す。
すると千聖はにかーっと笑って頷いた。
どうやら言うことを聞いてくれるらしい。



「じゃあまたね!」



こっちを見ながら元気に走り去っていく千聖。
転ばないのかな、と思ったと同時にこけてて思わず笑ってしまった。



「みや、何一人で笑ってんの?」



肩をトントンと叩かれて振り向くと、ほっぺに指がささった。
それと同時に視界にはドアップの梨沙子。



「・・・・・・・・・とりあえず離れろ。」



口が悪くなったのなんか気にしない。
イライラが一気に高まったあたしだった。



こいつが3人の内のもう一人、菅谷梨沙子。
1―1。
普通にタメ口。
勝手に『みや』って呼んでくる。
触り魔。
変態。

・・・・・・・・・こいつもあたしに懐いてる。



「あ、ちっさーか。」



とりあえず離れた梨沙子は、あたしが見てた方向を見て呟いた。



「うん、どーでもいいけど早く帰って。」



千聖の時とは比べものにならないくらいあたしの反応が冷たいのは、こいつが変態だから。
いや、本当に。

・・・・・・・・・今だって腰に腕を回されてる。



「えー、みや冷たーい。」



「うるさい。とにかく腕離せっ!!」



グーッと肩を押して離れさせようとする。
しかし、動かない。
もっと力を入れようとした瞬間、梨沙子の顔がまた近づいてきた。



「腰ほそ・・・・・・。いーよ、離れてあげる。」



耳元でそう囁かれた後にすぐ、ほっぺに柔らかい感触。
あたしが何をされたか理解できないまま、梨沙子は笑いながらあたしから離れていた。



「いひひっ、じゃねっ!」



逃げるように去っていく梨沙子。
なんか、もさもさしたスキップのような動きをしながら。



・・・・・・・・・って!



「・・・・・・っこの変態!!!!」



最低だ・・・・・・。
あの変態キスしやがった。
あー・・・・・・もう、本当にあいつらと関わると良いことない。

・・・・・・でもあの変なスキップに笑っちゃって、『まぁいっか』と思ったあたしは単純なのかもしれない。



「・・・・・・・・・最低。」



「へっ?」



また後ろから声が聞こえてくる。
しかもなんかめっちゃ不機嫌そうな声で、多分めっちゃ厄介なやつの声。



「いくらりーちゃんだからって、あたしの夏焼先輩に手出すのは許せないです。」



「・・・・・・・・・愛理のものになった覚えなんてないんだけど。」



3人の内の最後の一人、鈴木愛理。
1―1。
ちゃんと敬語。
しっかり『先輩』呼び。
三年のあたしより頭良い。
絶対二重人格。

そしてこの3人の共通の特徴。



・・・・・・あたしに懐いてる。



「え、会った時からあたしのものですけど。」



「意味わかんないし。」



「夏焼先輩も満更ではないでしょう?」



ニコニコと笑う愛理。
この顔だけ見れば、癒し系の美少女なのに。



「・・・・・・・・・バカじゃないの。」



「素直じゃないなぁ・・・・・・。まぁ、とりあえず来てください。」



愛理は呆れたように笑ってから、あたしの腕を引っ張ってどこかに向かう。
その後ろ姿からは、やっぱりなんか怒ってるような雰囲気。



「・・・・・・愛理。」



「・・・・・・・・・。」



「愛理っ!」



「・・・・・・・・・・・・。」



絶対聞こえてるはず。
こんな近い距離にいるんだから。
そう思って、もっとデカい声を出すあたし。



「愛理ってばっ!!!!」



「・・・・・・っ、え、なにっ?」



え、本当に聞こえてなかった?
なんか焦ったような顔してるし・・・。
いつも余裕綽々みたいな愛理が、敬語も忘れるほど余裕がない。



「や・・・大丈夫?」



どこに行くのか聞きたかったんだけど、こんな愛理を見ちゃったら心配せざるを得ない。
なんか余裕のない愛理の顔を覗き込む。



「・・・・・・っ!本当さ、勘弁してよ・・・・・・。」



そう呟いたと思ったら、近くの空き教室に押し込められた。
そして、抵抗するヒマもなくキスをされる。



しかも、口に。



「・・・っ、あ・・・いりっ・・・!」



「イヤなの。」



キスの合間合間に愛理に呼びかける。
するとあたしを抱きしめた愛理が、耳元で話し出した。



「みやが誰かと話してんのも、誰かに触られんのも。全部イライラするし、みやはあたしのものだし。」



まるで子供のように不満をぶつけてくる愛理。
いつもの敬語も『先輩』もついてない、余裕のない素を剥き出しにして。



「だから・・・・・・ずっとあたしの側に置いて一生閉じ込めておきたい。」



・・・・・・・・・ちょ、なんか急に真っ黒いオーラが出始めたんですけど気のせいですか。

しかもなんか、あたしを抱きしめてる腕の動きが・・・・・・エロいっていうか。



「あい、りっ・・・・・・離してっ・・・!!」



「ダメだよ。だから閉じ込めない代わりに、あたしがみやのこと触りまくるし、誰かと話したりしたらお仕置きとかもしまくるし。」



「ちょ、愛理っ、待って!全然ついてけてないんだけど!」



「だから、あたしと付き合ってよ。」



・・・・・・・・・・・・え。
なに、そんな束縛する発言してから付き合ってって・・・・・・。

そんなのって、



「付き合ってくんなかったら、この場で犯すけど。」



「あ、はい、付き合います。」



・・・・・・っておい。
そんな強制ありですか。


って思ったけどさ・・・。
正直『満更でもない』ってのは事実で。
初めて会った時から惹かれてたのも事実で。



今『付き合って』と言われて嬉しかったのも事実で。



なんでか、この二重人格者にどうしようもなく惹かれてる。

悔しいけど、あたしはもう愛理から逃れられないだろう。



end

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