・短編B・

□電話の向こう
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18時59分。

今の時間だ。
別に普段だったら特別も何もない時間だけど、今日は8月25日。

みやの誕生日で、しかもその本人はハワイにいる。

つまり、時差があるのだ。



「い、いいかなぁ・・・?」



自室で考える。
みやのことだから、みんなが部屋に集まってお祝いでもしてるんだろう。



そんな中、自分が電話していいものか。



「よくない、よね・・・・・・。」



そう呟くと同時に、時刻が19時に変わった。

やっぱりメールにしようと思い、いそいそとメール画面を開くあたし。



とりあえず、誕生日おめでとうから打って・・・・・・。



と、そこまで考えたところで携帯が震え出した。

着信だ。

相手はみや。



そう認識した瞬間、急いで電話に出る。



「もっ、もし『電話しろよバカっ!!』



あたしが言い終わる前に怒鳴るみや。
予想通りみんなで集まっていたらしく、電話の向こうはずいぶんと賑やかだ。
ちぃのうるさい笑い声とか、梨沙子のあの特徴のある笑い声が聞こえる。



「ご、ごめん・・・・・・。」



『・・・・・・別にいーけどさ。舞美のことだからどーせ、迷惑かもーとか思ってたんでしょ?』



・・・・・・ご名答。
しかもそれを直前まで考えてたから、すぐにメールを送ることもできなかった。



「ごめん・・・・・・。」



『ん、いー『舞美ぃ!!元気ー!?』



みやの声を遮って聞こえてくるちぃの声。
携帯の奪い合いでもしてるのか、ガサゴソと雑音が入ってきている。



「げっ、元『ちぃ返せっ!』



ちぃの問いに答えようとしたあたしの声を遮るみやの声。
なんだろこれ、どうなってるのかな。



『もしもし、舞美?』



しばらくあたしを呼ぶ声がなかったので黙っていると、急に全く違う人物の声に呼ばれた。



「もも?」



『そうだよ。』



みや達はまだ騒いでるのだろう。
ももの落ち着いた声の向こうからは、ベリーズのみんなの声が聞こえる。



「楽しそうだね。」



『みやが中心だからね。』



「・・・・・・へへっ。」



みやが褒められると、自分が褒められたように嬉しい。
思わず笑みをこぼすと、ももが苦笑しながら口を開いた。



『みやね、舞美から電話来るの待ってたんだよ。』



「え?」



『携帯の画面をずーっとキラキラした目で見つめてんの。』



何か期待してる時のあの目のことかな。
その姿が容易に浮かんできて、一人で笑ってしまう。



「それがさ、みんながキュンキュンするほど可愛くてさぁ。」



む・・・・・・。
それは面白くない。
確かにあのみやって、ちっちゃい子供みたいで可愛いもんなぁ。



「ダメだよ、みやに手出し『なっ!バカ小指っ!!!!』



ももに忠告しようと口を開いたら、またみやの声に言葉が遮られた。
・・・・・・そろそろ傷つきそう。



『えー?だって本当のことじゃーん。』



『うるさい!別にそんなことないしっ!!』



携帯の向こう側で繰り広げられるそんな会話。
その更に向こう側からもガヤガヤと聞こえる。

本当ベリーズって賑やかだよね。
もちろん℃-uteも賑やかだけど、ベリーズはまた違った種類の賑やかさなのだ。



『とりあえず携帯返してよっ!!・・・・・・もしもし?』



やっと携帯の奪い合いが終わったのか、さっきより落ち着いた声のみや。



「もしもし。」



『ごめん、なんかうるさくて。』



少ししょんぼりしているらしく、声が沈んでる。
そんなみやの声に笑って、あたしは一番伝えたかったことを伝えた。



「大丈夫だよ。それより、誕生日おめでとう。」



『・・・・・・ん、ありがと。』



あ、照れてる。

わかりやすい恋人の反応が、すごい可愛くて愛しい。



「えへへ。」



『何笑ってんの・・・。それよりさ、』



あたしの笑いに拗ねたように反応してから、みやは話題を変える。
その声音はなんだか、また照れてるような感じ。



「なに?」



『・・・・・・あたしの、18歳初の好きを舞美にあげる。』



「へっ?」



『舞美、好き。』



「えっ、あっ、み『舞美が一番におめでとうっていうか電話してくれなかったからだからねっ!!!!』



そんなふうに怒鳴ってから、みやは勝手に電話を切ってしまった。
残されたのは、熱い携帯と熱いあたしの顔。



「あー・・・・・・みや、反則技が多いよ・・・・・・。」



あたしはそう呟いてから、携帯のリダイヤルボタンを押す。



『なんでかけなおっ「みや、好き。」



あたしはさっきまでのお返し、とばかりにみやの言葉を遮る。
そして更にお返しというように、すぐに電話を切った。



多分、みやから電話をかけなおしてくることはない。
だからいくらさっきみやが反則技使ったからって、今回もあたしの勝ち。
今頃真っ赤になって、ベリーズのみんなにからかわれてるだろう。

でも、滅多にくれない言葉をくれたみや。

あたしに言う前に『オレンジジュースよりコーラのが好きだからっ!!』と叫んでたことには目を瞑ってあげよう。



そんなことを考えながら、ベッドにダイブする。

みやの代わりに携帯を抱き締めながら、早く帰って来ないかぁと呟いた。



end

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