・短編G・
□お子様接待
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「なんで拗ねとー?」
「…拗ねてない」
「そっか」
さっきからずっとこの調子だ。
―――――
久しぶりの一日休み。
里保も遊びに来たし、気分は最高。
前回のハロコンのBlu-rayを見ながら、ポテトチップスをつまみながら、床に座りベッドを背もたれにしてスマホを弄る。
ほら、最高だ。
なのに、それなのに。
来た時は普通だったのに(この人の普通は変だけど)なぜか拗ね始めた(本人は否定してるけど)里保が衣梨奈の足の間にいる。
衣梨奈のお腹を枕にし、衣梨奈の両足を肘掛けにするようにいる。
時々なにも言わず上を向いて口を開けるので、ポテトチップスを一枚与えてやる。
するとそれを噛み砕きながら顔の位置を戻す。
そしてたまに右手に持ってるサイダーを口に運ぶ。
スマホは弄ってないので、Blu-rayに集中してるんだろう。
「……拗ねては、ない」
と、状況を再確認したところで里保がようやくさっきのやり取り以外の言葉をくれた。
とは言ってもほとんど意味は同じなんだけど。
「じゃあなん?」
「…自分で考えて」
里保が上を向く。
ポテトチップスを要求するためではなさそうだ。
口は真一文字に結び、結構鋭く睨まれた。
そして、プイッと元に戻る。
「んー…怒っとう?」
里保が怒ってる時はこんなもんじゃないんだけど、一応聞いてみる。
「違う」
やはり違ったみたいだ。
ちなみに怒ってる時は衣梨奈のことなんて無視だしもっと禍々しいオーラ出してる。
さて、拗ねてない、怒ってないんだとしたらこれはなんだろうか。
考え始めたところで電話が鳴る。
相手は聖だ。
着信に里保は無反応。
出てもいいかな。
迷いながらも出る。
「もしもし、聖?」
『あ、えりぽん、28日のことなんだけどさ…』
里保がピクッと反応した。
ん?と思ったと同時に里保が体勢を直して衣梨奈に向き合って座る。
睨んでる。
と、思ったら。
「あ、なるほど…」
『なにがなるほどなの?ちゃんと聞いてる?』
「え?いや、なんでもない。えっと28日の話やろ?」
『そう、レッスン前に高校生組でご飯しよってなったでしょ?それで………』
睨んでたと思った里保は、ちょっと泣きそうな顔をしてから衣梨奈に抱きついてきて。
そりゃもう力強く。
ぎゅーって聞こえてきそうなくらい。
「えりぽんはうちのものじゃ」とか聞こえてきそうなくらい。
思わず笑う。
『なんで笑ってるの!話聞いてないでしょ!』
「あー…ごめん。その話また後でもいい?」
『え?別に大丈夫だけど…なんか忙しいの?』
「うん、お子様の機嫌取りせんといけんくなった」
『あ、そういうことか。お邪魔しちゃったみたいだね。ごめん。じゃあまたねー』
「ほいほーい」
電話を切ってからあやすように背中をぽんぽん叩いてやる。
ちょっと力が緩んだ。
「……お子様じゃない」
不満そうに聞こえるけど、さっきより不機嫌ではなさそう。
さて、これからどうやって機嫌良くさせようか。
「正解わかった。妬いてるんやろ?」
「…これでわかんなかったらえりぽんただのKYだよ。愛されないKY」
「ひど!愛されたい!…はっ!あいされたーい!あいさーれたーい!」
「思い出したように歌わなくていいから」
しばらくそんなやり取りを繰り返してると、ようやく顔を真正面から合わせてくれた。
お久しぶりです、と言いたくなる気持ちを抑えて頭を撫でてやる。
「ごめんね」
「…いいよ」
そんな、子供みたいな仲直り。
いや、喧嘩はしてないけど。
里保が怒っ…妬いてただけだけど。
許してくれたから別にいいけど。
「じゃあ残りの休日めいっぱい楽しもう!」
そう言っていつの間にか止められていたBlu-rayを再生。
ちょうど衣梨奈たちのパフォーマンスだった。
聖がアップになる。
「あ!この聖めっちゃ可愛い!!」
ね!と同意を求めるように里保の方を見る。
わなわな震えてる。
あ、やばい、と思うのは遅かったかもしれない。
「あんたなんもわかってないじゃろ!!」
あ、広島弁だーと思うのと、里保の頭突きをくらうのは、どっちが早かっただろうか。
とりあえず鮮明に刻み込まれたのは、声も出ないような痛みだった。
end