・短編G・

□続くかわからない日常
1ページ/1ページ




「みーやっ!」



「……祓うぞ」



「できないくせにぃ」



―――――



どうしてこうなったのか教えてほしい。
誰でもいい。
誰でもいいから教えてほしい。

なんであたしが魔物に懐かれなきゃいけないのか。



「今日もお仕事?」



「…」



「大変だねぇ」



「……」



「あ、もしかして本当はももに会いに来たとか!」



「っ、違う!」



「みやってももが言ってること合ってる時は黙ったままで、間違ってると否定するからわかりやすいよね」



なんであたしがこいつを祓えないのかって、そういう指令が出ていないからだ。
指令が出ている時と自分の身が危険に晒された時にしかあたしたち祓魔師は魔物を祓うことができない。
魔物にもいろいろいるのだ。
良い魔物、なんてのはそうそういないが、こいつみたいに危害を与えない魔物は結構いる。
だから、あたしは鬱陶しくて仕方ないこいつを祓うことができない。



「だけど、今のはどうかなぁ?」



「は?」



「半分正解、半分不正解、ってとこ?」



にやり、と笑ったこいつ(自称もも)に腹が立つ。
何を考えてるんだかまったくわからない。

とりあえず無視して歩を進める。



「会うために来たわけじゃないけど、来たついでに会えたらいいなーって感じかなぁ」



「……無駄口を叩きすぎると本当に祓うよ」



「おぉ、怖い怖い」



そんなわけない。
なんであたしがこいつに会うのを楽しみにしなきゃならないんだ。

別に、仕事柄あんまり人間と関わることがなくて自然と会話をする回数が減るから、こうやって自分に敵意のない、むしろ好意を向けてくれてるももと話すのがちょっとした楽しみになってる、だなんて絶対ないんだから。

って、いやいやいや。
なんかすごく言い訳がましくなってるとか、墓穴掘ってるとかそんなことないから。
ももとか呼んだことないから。



「あぁもう!!」



「うふふ。みやってば可愛いんだから」



「はぁ!?」



「いつもクールぶってるのに実は全然クールじゃないとことか堪らないね!」



「うっさいっつの…!」



早くこいつを祓う指令来ればいいのに。
なんて冗談半分で思ったけど。

本当に来たら、どうするんだろ。

いや、どうするとかないけど。
祓うに決まってるんだけど。
祓わないと、いけないけど。



「なぁに?急にそんなに見つめてきてぇ、ももちゃん恥ずかしー」



「……なんもない」



今そんなことを考えても仕方ない。
だけど、いつかこいつとも別れることになる。
いつか、とか漠然としてる言い方をしたけど、明日にだって有り得る。
そういうことを考えて行動するのも、悪くはないのかもしれない。



「ふーん……そういえばね、今日会ってからずっと思ってたんだけど…」



「なに?」



「なんで今日来たの?ここ結構人里から離れてるでしょ?しかも山だし。もう結構登ってるし。なんで?」



「…ちょっと待って、質問の意味がわから」



ないんだけど、と続けようとした時だった。
顔に、ポツッ、ポツッと水滴。



「うそ、ちょ、ちょっと待って…もしかしてっ」



次の瞬間。
ザーッと。
土砂降り。



「あんた土砂降りになること知ってたの!?」



「え?普通わかるでしょ?」



「魔物と一緒にすんなっ!!」



キョトン、としてるももに怒鳴るけど、それでは問題の解決にならない。
この雨での下山はキツいし、万が一そこで魔物に襲われたらどうしようもない。

というわけで、あたしはももの寝床である洞穴に招待されたのだ。



―――――



「びっしょびしょ…」



「脱げばー?」



「うん」



「へっ?」



こんなの着たままだったら風邪引くし。
とりあえず洞穴の前に結界を張って魔物が入ってこられないようにする。
こいつがいるから中にまで張れないけど、入り口を塞いでればなんとかなるだろう。
それから仕事道具をまとめて地面に置き、上に羽織ってる白い着物を脱ぐ。
サラシを巻いてるし構わない。
幸いにも下は着物が長かったのであんまり濡れてないし。



「ふぅ…冷えた…」



夏とはいえ山だ。
標高は結構高いし、雨にも降られた。
さっきももが起こしてくれた焚き火の側まで行ってしゃがんだ時だった。



「っ!?」



右腕を後ろに捻り上げられて思わず立つ。
それを待ってたかのように後ろから押されて壁に押し付けられた。



「なにっ、すんの…!」



「…みやさ、もものこと信用しすぎ」



耳元で聞こえる声は、いつものように甲高いものではなく。
どちらかというと魔物の唸り声に近い低さ。
ぞくぞくした。



「本当に何も持ってないし…」



次に聞こえたのはさっきよりはだいぶ気の抜けた呆れ声で。
少し、安心。



「生身で魔物と二人きりに…ん?一人と一匹?まぁどっちでもいいけど、二人きりになるとか、頭おかしいんじゃない?」



確かにそうかもしれない。
魔物と一緒にいて、自ら祓魔に必要な道具を外して、なんて。
本部に知られたら一ヶ月くらい訓練所に戻されそうな事かもしれない。

だけど、そうさせたのは、紛れもなくこいつだ。



「おかしいのは…ももじゃん…」



「はい?」



「…あたし、すごい訓練した。魔物を祓うための訓練。心構えも習った。覚えの悪いあたしが暗唱できるくらい。なのにこんなことした。ももが安心させた。もものせいだ…」



自分でもなに言ってるのかわからない。
こんな状況になってまでこんなこと言うなんて、本当にあたしは頭おかしいのかもしれない。



「…っ、もも…?」



数秒間の沈黙の後、うなじになにかの感触。
すぐに理解した。
ももの唇だ。



「ももが言いたいよ…みやのせいだって…」



「えっ、てか…ちょっ…あっ…!」



うなじにあった唇は肩に移動。
そしてたぶん噛まれた。
軽く、いや、甘く。
痛いと思ったのは一瞬で、すぐ舌を這わされて。



「そんな可愛いこと言われて大人しくしてられるわけないじゃん…もも、嫌われたくないのに…だけど我慢できないよ…」



そんな言葉に驚いてると、肩にあった唇は背中に下りていく。
さらしの上からでも充分な刺激。
そして、背中に集中しているうちにももの手が腰を撫で、お腹を撫で、どんどん上に上がってきて。

抵抗する気はなかった。

だけどその前にどうしても伝えたいことがある。
出る限りの力を振り絞って、ももの手を掴む。



「……嫌?」



「ちが、う…」



「嫌じゃないの?」



「嫌じゃない…言いたいこと、あるから…」



「…なぁに?」



まだどこか刺々しさがあったももの声が、柔らかいものになる。
それに安心してあたしも話し始める。



「…立場的に素直に表せないけど、会えると嬉しい。でも、こういう日常がいつまで続くかわからないから、あたしは自然と距離をとっちゃう。だけど、本当は…その……」



「ん、もういいよ。大丈夫。ももからは終わらせない。ももからは離れない、離さない。だから…続きいい?」



ももの手を掴んでいた手をやんわり外されて、切羽詰まったような声でそう言われて。
体が熱くなってくる。
意識もぼんやりしてくる。



「好きにしていいよ…」



無意識に出た言葉はなんだったんだろうか。
行為が終わった後も思い出せない。



ただ、動けなくなるくらい激しくされた後に文句を言ったら、ももに「自分の言葉には責任を持て」と怒られた。



end

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ