・短編G・

□セカンドファミリー
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「15時に来いって言ったの誰ですか…」



スヤスヤ、とか可愛いもんじゃなく爆睡してる千聖を見て、自然とそう呟いた。



―――――



『15時にうち来い!』



そんな電話が来たのは8時頃の話。
ガヤガヤとうるさくしつこくそう言ってくる千聖に根負けして、寝起きのあたしはつい『行くから!行くからもう黙って!』と言ってしまったのだった。
千聖は満足そうに了解して電話を切って。
あたしのしてやられた感は半端なかった。

まぁそうは言っても行くと言ってしまった手前、行かないわけにはいかない。
どうせもう千聖は千聖のお母さんにあたしが行くことを伝えてしまっているだろうし。
ドタキャンすると怒られるし。

そんな文句を心の中でぶつぶつと唱えながら、それでもやっぱりちょっと久しぶりな岡井家を楽しみにやってきたというのに。

お父さんは仕事でいない。
妹二人と弟は三人で遊びに行ったとか。
お母さんに至ってはあたしが岡井家に到着してから買い物に行ってしまった。
そしてあたしを呼び出した張本人は寝てる。



「なんだろうね、この状況…」



お留守番隊長?
岡井家のお留守番隊長?
寝てる千聖の代わり?

まぁ、いいけど。

正直、岡井家のこういうところも好きだったりする。
どんだけナカジマのこと信用してるんですかって話だけど。
でも、心地良い。
自分の家族とはまた違った心地よさ。



「…っきぃ…」



それは、なんと言ったらいいだろうな。
言うなれば嫁入り先の家庭で上手くやっていけてるみたいな。

……いや、何言ってんだか。
何が嫁入り先だよ。
恥ずかしいわ。
別にあたしと千聖はそんな、うちのリーダーとエースみたいなピンクな関係じゃない、し。
うん、ない、と、思う、や、まだ、うん?まだ?っていうか、ちが…う、たぶん。
好き、だけど、さ。



「…かじまぁ…」



こうさっきっから寝言がうるさいこのちっこい奴がさ、まぁ、好きっていうか、うん。
一緒にいたいっていうか。
気づいたら千聖のこと考えてるっていうか。
寝顔、可愛いなぁ、なんて。



「なんだよ岡井千聖…」



とりあえず、距離を縮めてみる。
心なしかさっきより満足そうな顔してる気がする。
気のせいだと思うけど。



「…あれ…なんだろ、この近距離…」



見てるうちにどんどん近づいてくる千聖の顔。
間違いなくあたしから近づいてるんだけど。
いやいや、なにしてんだ、人が寝てる時に。

………いやいやいや、寝てなくてもダメだけど。
…………ダメっていうかそういうんじゃないんだってば!

とりあえず落ち着いて離れよう。
こんなタイミングで目覚まされたら終わる。
終わっちゃう、ナカジマ、終わっちゃいますよ。



………でも、なんだろ、ここまで近づいたんだから、なにもしないで引き下がるってのはどうなんだろう。
いや、違う、別にそういうんじゃないけどさ、やっぱ、ほら、ヘタレとか言わせないために。
だから!違うって!そういうんじゃないけど!ほら!



「……離れよう」



どんどん自分を見失っていってるのを自分で感じたので自制。
自制とかしないでもどうせ出来なかったと思うけどさ。
……いや、何をだよってね。
うん、いいの、勝手な想いだし、全然伝えようとか思ってないし。



「なんだよちゅーしないのかよへたれー」



サーっと血の気引いたよね。
え、なんか全然寝起きっぽくない声聞こえたんですけど。
この人目ぱっちりしてるんですけど。



「な、ち、ちさ…い、いつから…!」



「なっきぃ来た時から起きてたよ、びっくりさせようとしたのにむしろびっくりさせられたわ!」



自分の顔に熱が集まっていく感じがして、恥ずかしくて堪らない。
でも、なんか、いつもの調子で喋ってるはずの千聖も赤いような。



「あー、ご、ごめん…別に、えっと、そういうんじゃなくて」



「…そういうんじゃない?」



「あ、うん、そう、だから気にしないで」



「……好きか!?」



「へっ!?」



だんだんと俯いてしまっていた顔が、千聖の言葉で一気に上がる。
目の前の千聖は、たぶんあたしと同じくらい真っ赤だった。



「好きか!千聖のこと!」



「えっ、や、その、す、好きっていうか…」



「好きか!?」



「す、好き!!」



「ちゅーとかしたい方の好きか!?」



「そ、その好き!!」



「……」



「……」



なんだろう今のやり取り。
全力でそう思いながらいきなり訪れた沈黙に耐える。

なんとなく悪くない流れだと思ったけど、勘違いだったのか。
このまま岡井家との、千聖との、心地良い関係は終わってしまうのか。
嫌だな、うーん、嫌、だなぁ…。



「…ち、千聖も…だ…」



「…へ?」



そんなことを考えながら乗り切った沈黙の後の言葉は、あたしの思考を停止するのに効果絶大だった。



「千聖もナカジマが好きだって言ったの!わかった!?」



「わ、わかった!!」



……ん?
千聖も、ナカジマが、好き?
わかった、って言った?
あれ?ていうことは、つまり?



「つ、付き合う…?」



「そうじゃないの!?」



「そ、そうだよ!そうだよね!ていうか!もうちょっと落ち着いて!つられるから!」



「ご、ごめん!」



もう一度訪れる沈黙。
予想外な展開。
え、夢とかじゃない。
こんなすんなり行くものなの?



「とり、あえず…ちゅー、してみよう、か…?」



「おね、お願い、します」



なにこれ恥ずかしい。
なんかぎこちないし。
千聖、容赦なく近づいてくるし。
あ、やばい、心臓痛い。
え、これ大丈夫?大丈夫なのかな?



「ただーまー!!!」



「うぉわっ!!!お、おか、おかえり!!」



「あ、中島さん来てたんだ!こんにちはー!」



「うぃっす」



「お、おじゃ、お邪魔してます!」



嵐3つ。
過ぎ去った。
タイミングが素晴らしいとしか言い様がない。
おかげでこっちは、すっかりタイミングを見失ってしまったわけですが。



「あ、あー…また、今度、な!今日はもう!ほら!お祝い的な感じで!パーっと!」



「そ、そうだよね!これからいっぱい時間あるし!」



「これから改めてよろしくってことで!」



「よ、よろしく!」



ちゅーの代わりにがっしり握手。
なんとなく二人共笑い出す。
だって、不自然すぎる。
笑いが止まんなくなってきた。
これまでのくだり、正直面白すぎるでしょ。
映像に残してたら、やばいくらい面白い。
違う意味でもやばいけど。

でもなんか、こうやって笑い転げてる感じも、あたしたちっぽいと言えばあたしたちっぽいのかも。



うん、そうだ、これでいいんだ。



そう思ったらなんかますます笑いが止まんなくなってきたし。
戻ってきた三人には変な目で見られるし、帰ってきたお母さんにも心配されるし。
なにかアクションが増えるごとに更に笑えてきちゃって。

こんな関係が、あたしと千聖だなぁって。
あー、好きだなぁって。

ナカジマ、ちょっとのろけてみました。

へへ。



end

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