・短編G・

□一年越しの告白
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「あれ?みや?」



「うっげ…」



あぁ、素直じゃないな。



――――――



「まさかみやが来るとは思わなかったよ!」



「あぁ…うん…」



ジャージ姿のこの人は、3つの段しかない階段の中段に腰を下ろして、部活の様子を眺めながらそう言った。
私服のあたしは、一番上の段に立ったまま、この人を眺めながらそう返した。



「高校の時もサボってばっかりだったのに、卒業してから来るなんてさぁ」



「…あまのじゃくだから」



「あまのじゃくにも程があるよね!」



うるさいな、とは言えなかった。
なんでって、そりゃ、なんか、距離感が。
この人と会うのは約一年振りだ。
どう接していいのかなって。



「みや?…!」



なにも言い返してこないあたしを不思議に思ったのか、振り返って見上げてくる。
そして何故か照れたように慌ててすぐに視線を前に戻した。

………めちゃくちゃ見てたのがバレたのかもしれない。

この人でも照れるということがあるんだな。
ってそんなこと思ってる場合じゃない。
今この状況で一番恥ずかしいのは間違いなくあたしじゃないか。



「あー、その…まい…矢島、さんは…練習見に来たの?」



「えっ?」



「…や、だから」



「あ…そう!うん!そうだよ!結構来るんだ!一ヶ月に二回くらいは来てるかも!」



誤魔化すように話し出したのは、失敗だったのかもしれない。
だってまた新しい問題にぶつかってしまった。

なんだろうな。
この人との関係は、もっと心地良いものだったと思うんだけど。
それなのに、なんだか今は。



「…みや、人気者だね」



「は?」



あたしの心の声を遮るようにそんな声。
もちろん表情は見えない。



「みんなあんまり集中出来てない。みやの方チラチラ見てて」



笑ってるのか呆れてるのか怒ってるのか、まったくわからない声音でそう告げられる。
なに勘違いしてんだか。
鈍感さんは健在だ。



「見られてるのはまい…矢じ「舞美でいいのに」



今度は本当の言葉を遮られた。
言葉の意味を理解するのが間に合わない。
この人の声が、拗ねてる色を出してるのはすぐに理解出来たのに。



「…舞美でいいのに」



もう一回繰り返された言葉。
それを今度こそ飲み込んで、心の中で繰り返して、一息つく。



「…見られてるのは、…舞美でしょ」



小恥ずかしい。
高校時代の通りなのに。
なんでかな。
よくわかんないけど、口の中がもぞもぞする。



「違うよ!だっていつもはこんなんじゃないもん」



舞美は呼び方についてもう何も言わなかったけど、満足してるってことはわかった。
それでも違う不満があるのはわかったけど。



「本当…ばっかじゃないの?」



前からそうだ。
鈍感バカ。
勝手に勘違いして勝手に不満がるなっての。



「えへへ…」



反応は予想外。
むきになったように言い返してくると思ったのに。
なんで嬉しそうに笑ってるんだか。
いつの間にそんな変な方向に目覚めてたのか。



「なに笑ってんの」



「うん、ようやく元の距離だなーって」



口を紡ぐ。
舞美もそう思ってたんだなって思うと、なんだかむず痒いというかなんというか。

未だに以前のような心地よさは取り戻せてない。
それは嫌なものではないけど。



そろそろ、舞美の後ろ姿だけ見るのも飽きてきた。



「……今日、さ…」



「うん?」



「部活、見に来たんじゃなくて……」



「うん」



「……ま、舞美に…会いに…えっと、ほら、結構来てるって、聞いてたから…」



座ってた舞美が勢いよく立つ。
そして振り返る。

段差のせいで珍しくあたしより下にあるその顔は、抑えきれない嬉しさを必死に堪えてた。



「そ、それ、本当っ?」



キラキラした目で見上げられ、恥ずかしさに顔の温度をあげながら頷く。

うるさくはしゃぐんだろうな。
無駄に喜んで、抱きついて来たりするんだろうな。

そう、予想していた。



だけど、違った。



「あのね、変なのはわかってるの、わかってるんだけどね」



何が。
変なのはあたしじゃないのか。
急に真顔になった舞美に、グッと息が詰まる感じがする。



「こんな久しぶりに会ったのに、言うことじゃないってわかってるんだけどね」



あ、待って、ちょっと、タイム。
声は出ない。
本当に望んでるのは、この先の言葉を聞くことだ、って。
脳内ではそう結論が出てるようだ。



「好き、なんだ。みやのこと。好き。すごい、好き」



「うん…」



知ってた。
どうしてか、知ってたよ。

舞美も知ってるはず。

あたしの気持ち。



「ど、どうかな…?」



「なにそれ……わかんないの?」



「不思議とわかる、けど…言葉として聞きたいなぁ…って」



「あぁー………」



結局前からそうだったじゃん。
舞美がなんで言い出さなかったのか知らないけど、あたしは素直じゃないから。
だから一年も言い出せなくて。
あ、舞美のことだから自分の気持ちに気づいてなかったのかもな。
たぶんそうだ。
この人鈍感だから。

そう言い切れるほど、舞美の気持ちは充分知ってる。



「…好き、あたしも、好きだよ……うわっ!」



あたしの言葉を聞いて、感極まったみたいにガバッと抱き締めてくる舞美。
条件反射のように肩を押し返して上半身だけは距離をとる。
見えた表情は、いつものような弾けた笑顔。



「いきなり抱き付くなっての…!」



「だって嬉しいんだもん!」



「だからって…ったく」



文句を言いながら体を離そうとしないことにはつっこまないでほしい。
この温もりは、やっぱり心地良いもので。



「みやー」



穏やかな笑顔。
つられて微笑む。
舞美との距離が近づく。

あと少し。



ってところで、正気に戻った。



「み、みや?」



「や、あの…」



「見えないよ…?」



慌てて慌てて慌てた末に、何故か目隠し。
だけど意味は成したみたい。
舞美がジタバタするけど、離してやらない。

だってあたし気づいちゃったんだ。



後輩たちめっちゃ見てる。



「みや、離してよー…」



「無理」



「えー!」



「ていうか今すぐここを去りたい…」



「え?なんで?どうかした?」



「どうかしてるよ…」



「状況把握のためにとりあえずこの手を…」



「無理」



こんな、喧嘩とはほど遠い言い争いはしばらく続いた。

これすらも後輩たちからすればいちゃついてるように見えてたなんて、そんなことを考える余裕はあたしにはなかった。



end



州 T oTリ<みや…

州*´T v T)<舞美ちゃん…

リ ;・一・リ<二人ともいつからそんな呼び方に…(雅ちゃん…)

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