・短編G・

□℃-ute海賊団
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「良い天気だなー」



「千聖、早く行こうよ」



「そんな慌てなくてもいいじゃん」



「日向ぼっこなんていつでも出来るじゃん、買い物はあんま出来ないじゃん」



「あーはいはい、わかったよーう」



二人の言い合いとは言いきれない言い合いが聞こえてくる。
いつもなら綻ぶ頬も、今はキュっと結ばれたままだ。



「なっきぃも行くっしょ?」



甲板に寝転がってる千聖に小さく蹴りを入れながら舞ちゃんが聞く。
聞かれた本人、なっきぃはあたしの方を見る。
あたしはその視線に、ようやく頬を綻ばせて手を振る。

なっきぃは苦笑しながら立ち上がった。



「ほら、三人で行こ」



「愛理来ないのー?」



千聖の質問は、あたしに答えられる前になっきぃに答えられた。



「さすがにリーダーを一人には出来ないでしょ」



「あそっか!じゃあ早く帰ってくる!」



千聖が無邪気にそう言う。
舞ちゃんのことが気になった。
なっきぃも同じことを考えてるはず。
なにか取り繕わなきゃ、と思った時だった。



「大丈夫だよ」



ここにいる四人の誰の声とも違う、優しい声。
どこか落ち着く声。

だけど、今は落ち着いてる場合じゃなかった。



「舞美ちゃん!安静にしてってば…」



いつの間にか自分の部屋から出て、目の前にある手すりに寄りかかりながらこっちを見てる舞美ちゃんに怒りながら近づく。
舞美ちゃんはチラッとあたしを見てから、三人に視線を移す。



「ちっさー、ゆっくりしてきていいよ」



「えー、本当?大丈夫?」



「大丈夫。あたし、いっぱい寝るから」



「うーん…わかった!行ってくるね!」



「いってらっしゃい」



手を振る千聖につられて手を振りそうになる舞美ちゃんを慌てて制する。
その時触れた舞美ちゃんの体は熱かった。
やっぱり、無理してる。



「なっきぃ、舞は大丈夫だと思うけどちっさーはちょっと心配だから、お目付け役よろしくね」



「あぁ…うん…」



「……嫌だ?」



「そ、そういうんじゃなくてっ…!もう!リーダー無理しないでよね!安静にしといてね!」



「えへへ…大丈夫」



「お目付け役が必要なのはどっちなんだか…」



ぶつくさ言いながらなっきぃは先に降りていった千聖を追いかける。
しっかり見張っといてね、という視線をあたしに残すのを忘れずに。
その視線に笑い返しながら、ごめんねと思った。
なっきぃだって舞美ちゃんの側にいたいはずなのに。

でも、船長じゃない時の舞美ちゃんは、あたしのものだから。



「舞」



「っ!」



舞ちゃんの反応と同じくらいあたしもビクッとした。
あたしが反応しても意味はないんだけど。
でも、舞美ちゃんはどう声をかけるつもりなんだろうって、気になって。



「いってらっしゃい」



心配するまでもなかった。
いつも通りな言葉になぜかあたしが安心する。
だって舞美ちゃんの言葉は、こんなにも暖かい。



「いって、きます…」



舞ちゃんは弱々しく返したけど、嬉しいと思ってるのは間違いなかった。
長い付き合いだ。
言葉の端々に感情が読み取れることが多々ある。



「気にしないでね」



舞ちゃんが梯子に手をかけた時だった、舞美ちゃんがそう言ったのは。
バッと顔をあげる舞ちゃん。
変わらず微笑んでる舞美ちゃんに、舞ちゃんは少し泣きそうになりながら頷いた。



「うん…ごめんね…ありがと…」



姿が見えなくなる直前にそう言い残して、舞ちゃんは降りていった。
先に降りた二人は舞ちゃんを待っていたらしく、千聖の豪快な笑い声がすぐに聞こえてきた。



―――――



一昨日の夜のことだった。

敵船の襲撃があった。
しかし相手は弱くて。
まずそこが一つの緩み。

そして、昼にもあった襲撃で舞ちゃんの絶好調っぷりを認識させられてたのが、二つ目の緩みだろう。



『舞一人で充分だよ』



そう言って舞ちゃんは一人敵船に乗り込んだ。
あの調子なら大丈夫だろうと、あたし達も見送った。

舞美ちゃんだけが、追いかけた。



『今の舞は緩みきってるよ』



少し怒ったように。
あたし達に怒ることなんて滅多にない舞美ちゃんが。
一人で乗り込んだ舞ちゃんを責めるように、そんな舞ちゃんを見送ったあたし達を責めるように。

それでもあたし達は追いかけなかった。
舞美ちゃんのいつもの心配性だと、自分達の判断は間違ってないんだと。
どうせ少し経ったら、照れたように笑う舞美ちゃんと、呆れたように笑う舞ちゃんが帰ってくるんだと、そう思ってたのだ。



帰ってきたのは、泣いてる舞ちゃんと、血だらけの舞美ちゃん。



『舞美ちゃんがっ…死んじゃうっ…!』



唖然として動けなかったあたし達は、舞ちゃんのこの言葉でようやく動くことが出来た。

幸い命に別状はなかったけど、昨日は一日中高熱が出て大変だった。
代わる代わる付きっきり世話をして、一番近くにあったこの街に船をつけて。
薬や包帯や氷などを買い込んで。

そしてようやく夜になって落ち着いた舞美ちゃんが、今日は自由行動してていいよ、と言ったのだ。

怒られると思っていたあたし達は拍子抜けした。
舞美ちゃんが怒らなかったら、あたし達の誰も怒れない。
怒りのぶつけどころを失った。
舞美ちゃんを失うかもしれないという不安、悲しみ、怒りが渦巻いた。

あたしはそれを、舞ちゃんにぶつけてしまった。



『なにがあったの…答えてよ!』



船に戻ってきてからずっと自室にとじ込もってうずくまってた舞ちゃんを問い詰めた。
滅多に泣くことのない舞ちゃんが、涙で瞳を潤ませてるのをわかっていながら無理矢理答えさせた。



あたし達が期待した通り、舞ちゃんは船にいる全員の敵を倒した。
いや、倒したと思ってた。
船尾に子供がうずくまっていたらしい。
人質だと思って、武器をしまってから、もう大丈夫だよ、と声をかけた。

子供は銃を持っていた。
珍しいことじゃない。
あたし達だって、小さい時からそんな感じだ。
だから油断した舞ちゃんが悪い。

でも、その油断の被害を受けたのは舞美ちゃんだった。

いち早く子供が敵だと気づいた舞美ちゃんは、体当たりで舞ちゃんを退けた。
そして子供の真正面になった舞美ちゃんは、至近距離で右肩に2発銃弾をくらったのだった。



その話を聞いて、あたしは舞ちゃんを責めた。
責められる資格なんてないのに。
舞美ちゃん以外、そんな資格を持ってる人なんていなかったのに。

すぐには謝れなかった。
今日の朝ようやく謝れて舞ちゃんも許してくれたけど、なんとなくぎくしゃくしてる。
こんなぎくしゃくも、数日経てば何事もなかったかのようになると思うけど。
この件については、おそらくあたしと舞ちゃん以外はもう触れないだろう。

当人達が触れるのも、仲直りの時だけだ。



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