・短編G・

□大人への第一歩
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あーあ、ついにやっちゃった。



あたしの下に敷かれてる舞美ちゃんを見て思う。
当の舞美ちゃんは、目を点にして、ポカーンてアホ面。
そんな顔さえ可愛いとか思っちゃうあたしは、結構末期なのかもしれない。



さて、そんな呑気なこと考えてないで、これからどうするか考えないと。



「あい、り・・・?」



そう、思わず、思わずやってしまった。
押し倒してしまったのだ。
隣に住んでる幼馴染みのお姉さんを。
美人で可愛くて、ずっと慕ってきたお姉さんを。
あたしのことを妹のように思ってくれてたお姉さんを。



「ど、どうしたの?えと、手・・・」



押し倒して、両手を押さえつけて、見下ろしてる。
そんな状況。

なんでこうなったかって。
舞美ちゃんが悪い。
あたしの誕生日祝いであたしの家族と舞美ちゃんの家族でご飯食べに行って、二人であたしの部屋戻ってきて、舞美ちゃんからネックレスのプレゼントを貰って。
ここまでは良かった。
問題はここから。

愛理はあたしの中ではまだまだ子供なのになーって言われて、ちょっとムッとした。
舞美ちゃんはなんとも思ってないだろうけど、あたし的には結構、年の差というのは前から邪魔というか、もどかしい存在で。
子供扱いされるのがすごい嫌で。
そんなあたしに気づかず舞美ちゃんは『でも愛理、おっきくなったねぇ』とか言いながら頭とか撫でるもんだから。

あたしだって成長してるんだって見せつけたくて、気付いたらこの状況。

あれ、どっちが悪いのかな。
まぁどちらにせよ、この状況になってしまったという事実は変わらない。



「愛理ちゃーん・・・?手、離してくれると嬉しいなぁ、なんて・・・」



「・・・嫌」



「えっ・・・って愛理!?」



とりあえず、首筋にキスをしてみた。
一気にバーっと赤くなった舞美ちゃんに、さっきまで冷静だったあたしの心がうるさく騒ぎ始めた。

そういう行為は知っている。
まだしたことはないけど。
それが出来たら、舞美ちゃんはあたしのことを大人だって思うんじゃないかな。



「あいり・・・」



舞美ちゃんの目が潤んでる。
不安げにあたしを見る目に、なぜだかぞくぞくした。
もしかしたらあたしには変な性癖があるのかもしれない。



「愛理、なにか、怒ってる・・・?」



「え?」



思いがけない言葉。
この状況、怒ってるとは少し違うと思う。
確かにこんな状況になった原因にムカつきはあったけど、そんなもの既に忘れてた。
今のあたしにあるのは、舞美ちゃんに子供扱いされたくない、という気持ちと、舞美ちゃんをあたしのものにしたい、という気持ちだけだった。



「怒ってないよ?」



「うそ・・・」



「嘘じゃないって。なんで?」



「だって、顔怖いし・・・」



そう言ってから抑えられてる手を動かそうとする舞美ちゃん。
それを力を入れて制止するあたし。

舞美ちゃんが、ほら、という目であたしを見る。

いや、そういうわけじゃないんだけど。
これは条件反射というか、なんというか。

というかこの状況に、あたしの怒り以外のなにかは感じられないのだろうか。
まず怒ってもないのに。
なんかそれ、寂しいな。



「・・・好き、なんだよ」



困ったような顔をしてた舞美ちゃんの目が大きく見開く。
怖くなって、あたしは目を逸らす。
それでも続きは口を突いて出た。



「舞美ちゃんのこと、いつからか仲良いお姉さんって思えなくなってた。ただ、好きで、欲しくて、愛しくて。ごめん、ごめん・・・」



なに言ってるんだろうかあたしは。
こんなこと言って。
こんなこと言ったら、優しい舞美ちゃんが、どんなに困るか知ってるのに。

あたしのごめんはズルいごめんだ。
こんな感情を持って、じゃない。
知ったら困るのに、それをわかってて伝えてしまってのごめん。

あたしはズルい。



「愛理、手」



「え?」



「手、離して」



ガンと頭を殴られたような衝撃。
拒絶、された。
当たり前だ、こんなの当たり前のことなのに、舞美ちゃんなら大丈夫だと思っていたあたしがいて。

視界を滲ませながらゆっくりと上半身を起こす。



「っ!?」



その瞬間、今度は本当の衝撃。
暖かい体温と、大好きな匂い。



「舞美、ちゃん?」



「・・・ごめんね」



抱き締められた嬉しさや安心を感じたのも束の間。
そのごめんは、なんのごめんだ。



「あたし、愛理のこと妹みたいにしか思ってなくて、すごく今驚いてる」



そっちの、ごめん。
あたしにとって、最悪なごめん。

今すぐ部屋を飛び出したいけど、舞美ちゃんの力強い抱き締めで身じろぎが出来ない。
さっさと離してくれればいいのに。
中途半端な優しさなんてごめんだ。



「・・・でもね?あたし、変なの」



ようやく体が離れる。
恐る恐る見た舞美ちゃんは、困りきったという顔をしていた。
なにが変なんだろう。

少し、良い予感がしていた。



「妹みたいに思ってたはずなのにね?愛理が言ってたように、あたしも愛理が好きだし、欲しいし、愛しいの・・・」



「・・・本当?」



「うん・・・愛理と一緒、かもしれない」



良い予感は当たった。
舞美ちゃんは鈍感だ。
自分の気持ちに気づかないくらい鈍感だ。


舞美ちゃんの鈍感は止まらない。
顔を近付けてきたかと思ったら、すぐにあたしの目元に唇を押し付けてきた。
さっきちょっとだけ溢れちゃった涙だ。
そんなことされるだなんて全然思ってなくて、顔がカッと熱くなる。


「しょっぱい」

そっと舌を舐めて、舞美ちゃんはそう言って笑った。
誘ってるの?
そう感じちゃうぐらいに、あたしの胸はドキドキしてる。
そうじゃないなら、ちょっと鈍感過ぎだし、天然過ぎなんじゃない?

「もう、さ、我慢しなくていいよね?」
「え?」

ニコニコと笑っていた舞美ちゃんをもう一度押し倒して、またさっきと同じ体勢になった。
全く同じだけど、数分前のあたしにはなかったものが今はある。
一方的にしか向いていなかった気持ちが、今はそうじゃない。
そこから生まれる余裕が、あたしの中で静かに眠っていたものを呼び起こそうとしている感覚。

「だって、舞美ちゃんは愛理のでしょ?」
「あい、り?」

掴んでいた手を目の前まで持ち上げて、手のひらに唇を押し付けた。
緊張してるのかもしれない。
舞美ちゃんの手のひらはしっとりと汗ばんでいた。

「愛理…なに、する、の?」
「わかるでしょ?舞美ちゃんも大人なんだし」

もう一度手を床に押し付けて、舞美ちゃんの唇に触れるか触れないかのところまで顔を近付けた。

「愛理も、もう子供じゃないから」

どんなに鈍感で天然な舞美ちゃんでも、すぐにわかるよ。
あたしがもう舞美ちゃんが思ってるような子供じゃないってこと。

「…もしかして、それで怒ってるの?」
「怒ってないよ。怒ってないから、もうそれはいいよ」

思った以上に子供っぽい言い方になってしまったのが恥ずかしい。
でも、そんなことより、今は。

方法なんて知らないけど、身体が、心が舞美ちゃんを求めてる。
舞美ちゃんがまた口を開こうとしたから、その前に自分の唇で塞いだ。

どうしてこうなったんだっけ。
夢中でこんなことしてるけど、こんな展開、1時間前のあたしは考えてもなかったのに。

こんな時にもごちゃごちゃとどうでもいいことを考えてしまう自分が嫌で、あたしは夢中でキスをした。
声を殺して、苦しそうに眉間に皺を寄せる舞美ちゃんが可愛い。

舞美ちゃんもこんな顔するんだ。
そう思ってる自分に気付いて、子供扱いしてるのはお互い様だったのかもしれないと思った。

これからいっぱい知っていきたいな。
あたしの知らない舞美ちゃんを。
舞美ちゃんの知らない愛理も、いっぱいいっぱい見せるから。

今日から二人でスタートしよう?
大人なあたしたちを。



end

舞美ちゃんの鈍感は止まらない〜がメイシさんです!

本当にご協力ありがとうございました!

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