・二次版権A・

□寒空のベンチ
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寒空の中、私はいつものベンチに向かった。
いつも、玲が座ってるベンチに。



――――――――――――



「またいるし。」



私が会いたいから来てるくせに、またそんな言葉が出る自分の口に呆れる。
呆れるだけで直す気はないんだけど。



「・・・・・・いちゃわりーかよ。」



紗枝から借りた(無理やり渡された?)であろう本を読みながらそこにいたのは、やっぱり玲だった。



「別に?」



私は答えながら玲の隣に座る。
悪い、なんて返したら本当にどっかに行っちゃうようなやつだ。
発言には細心の注意を払う。



「あそ。」



・・・・・・何か悪いことしただろうか?
今日は反応が冷たい気がする。



「・・・何怒ってるの?」



沈黙。
もしかして本当に怒ってる・・・?
おかしいことがあったかな、と自分の行動を振り返ってると玲が話し始めた。



「槙に怒られた。」



・・・なんだ、そんなことか。
と、ホッとしていた私の耳に思わぬ言葉が入ってきた。



「最近お前と仲良すぎだって。」



本を閉じて、私を見て玲はそう言った。

心臓が音をたてる。
槙・・・玲の恋人、上条槙は私の想いに気付いたんだろう。
そしてこれは、上条槙からの間接的な忠告。
私はごくっと唾を飲み込んだ。



「へ、へぇ。そんな訳ないのにね。」



動揺を隠そうとするけど、上手く話せない。
心臓が、耳のそばにあるのかと勘違いするほど音をあげてる。



「・・・・・・そーなんだよなぁ。」



玲のその言葉に、全身の血液がふっと下がったのを感じた。
玲には、バレてない。



「そー言ってんのにあいつ納得しねーんだ。紅愛からなんか言ってくれよ。」



苦笑しながら話す玲。
あぁ・・・いつもの玲だ。
たったそれだけで頬が緩むのを感じて、我ながら単純だと思う。



「イヤよ。そんな勘違いなんかに巻き込まれるのは。」



やっといつもの調子で話せるようになる。
と、思ったと同時に玲が立ち上がる。
もしかしてもう帰るとか?
来る時間が遅すぎただろうか。
嫌な予感がする・・・。



「言うと思った。じゃ、あたしはまた槙の誤解を解いてくるわ。」



やっぱり・・・。
嫌な予感ほど当たる予感はないわ。
内心がっくりしてるが、それを出す訳にはいかない。



「あそ。頑張って。」



玲に気づかれないためにも、こういう対応は大切なのだ。



「おう。・・・てか寒いからそろそろ帰れよ。」



・・・疑問。



「なによそれ。自分は寒い中本読んでたくせに。」



そう。
玲の方がここにいた時間は長いはずなのに、来たばっかりの私を帰そうとするのはおかしい。



「・・・・・あたしは、ここでするお前との対談が毎日の日課なんだよ。」



・・・なによそれ。
その言い方だと、それが楽しみと言ってるように聞こえる。
そうしたらまた私は期待しちゃうじゃない・・・。



「聞いてんのか?・・・対談相手が風邪ひくと困るっつってんの。」



止めてよ・・・。
またそうやって期待させるのは・・・。



「私もこれが毎日の日課・・・楽しみよっ!!」



そう思っておきながら、口から出るのは本心。



「・・・ん、そりぁ良かった。じゃ行くわ。」



いつもは見せない優しい笑顔を見せる玲。


そんな玲は、いつも近づいたと思ったらまたすぐ離れて。
モヤモヤする私の心。

その度思う。



――なんで玲は私のものじゃないんだろう



――――――――――――



今日もいつものベンチに向かう私。

そこにいるのは玲。

それはずっと変わらない。

でも、それに比例するように変わらない私達の関係。


今日もベンチは寒かった。



end

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