・短編C・

□ヒドい出会いと片想い
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保健委員になんて、本当はなりたくなかった。

昼休みには保健室で待機だし、放課後には掃除とか整備をしなきゃいけないし。
しかも、一つのクラスに2人だからもう1人の子が休んだら1人でやらなきゃいけない。

良いことなんて全くないと思ってた。



・・・・・・・・・ついさっきまでは。



ベッドのシーツを整頓しようと思ってカーテンを開けると、そこにはあたしの片想いの相手がいたのだ。
スヤスヤ眠るその姿は、年上でヤンキーな人だけど間違いなく可愛くて。

自然と笑みがこぼれた。





―――――――――――





『ちょっとさぁ、うちらと遊んでよ。』



あたしが入学したての頃、他校の不良数人に絡まれた時のこと。
この身長のおかげか、今まで一度もそんな経験が無かったためどうすることも出来なかった。
そして、怖くて怖くて、もう泣きそうって時にこの夏焼先輩が助けてくれたのだ。



『夏焼!?なんで一匹狼のお前が人助けとかしてんだよっ!』


『うっさいな。可愛い子は守る主義なんだよ。』



気怠げにそう言った夏焼先輩は次々に他校の不良達を倒していった。

それを呆気にとられたように見ていると、全員倒したらしい夏焼先輩は何も言わずに去ろうとして。
それを慌てて止めてお礼を言うと『言葉のお礼はいらない』と言われたのだ。
その答えにポカーンとしてると、グッと背伸びしてあたしの唇にキスをして夏焼先輩は帰っていった。

無表情からイタズラっ子の笑みようになった顔が忘れられなかった。





―――――――――――





今考えるとヒドい出会いだ。
だって普通初対面の人にキスなんてする?
しかも、夏焼先輩とこんな出会いをしてるのはあたしだけじゃない。
この学校の可愛い子は勿論、他校の可愛い子達もこんな出会いをしているらしい。

よく友達には可愛いとか綺麗とか言われるけど、他の噂になってる子達は比べものにならないくらい可愛いし。
勝ち目なんて全くない。


だけど、好きなんだ。
確かにヒドい出会いだし、夏焼先輩はほとんど学校来ないし、可愛い子なら誰でも好きだし。
止めた方がいいのかもしれないけど止められない。

溢れ出る想いを止めることなんて出来ないのだ。



「・・・・・・んっ、くー・・・・・・ふー・・・・・・ん・・・?」



「夏焼先輩おはよーございます。もう放課後ですよ?」



トロンとした目であたしを見上げてる夏焼先輩にまた笑みが零れる。
状況を把握出来てないらしく、『?』が頭の上に浮かんでいた。



「・・・・・・くま、い・・・ちゃん・・・?」



「あはは!はい。」



「あー・・・・・・寝過ぎたのか・・・・・・。」



やっと覚醒してきたらしい。
ちょっと照れくさそうに髪の毛をかきあげてからベッドを降りる夏焼先輩。



「熊井ちゃんがキスで起こしてくれたの?」



靴を履いた夏焼先輩が、イタズラっ子みたいに笑いながらあたしを見上げてそう言う。
意味を理解して慌てて反論。



「ちっ、違いますよ!」



「はは、知ってる。」



そう笑って、夏焼先輩は先生の椅子に座った。
帰んないのかなと思って見てると、あたしの視線に気付いた夏焼先輩と目が合う。



「ん?早く仕事終わらせちゃいなよ。」



「え、あ、はいっ。」



不思議に思いながらも言われた通り仕事を再開。
あたしが黙々と作業を進めてるうちにも、夏焼先輩はデスクについてなんか適当にガサガサやってる。



「えっと、じゃあ・・・あたし帰りますね。」



「はっ?」



保健委員の仕事も全部終わって、もっと夏焼先輩といたいなと思いながらもここにいる理由はなくて。
惜しみながらそう言うと、呆気にとられたような夏焼先輩。
なんでそんな反応したのかわからなくてあたしもポカンとしてると、夏焼先輩は近くに置いてあった自分の鞄を取ってあたしの隣に立つ。



「な、なんですか?」



「・・・・・・・・・・・・待ってたんだけど、今。」



若干拗ねたような様子。
それに可愛いなぁと思ってから、言われたことの意味を理解する。



「あっ、あーっ、すいませんっ!」



「まぁ、一緒に帰りたくないならいーけど。」



「帰りたいです!!一緒にっ!」



慌てて言葉を吐き出すあたしに、夏焼先輩は優しく笑った。
いつもからかわれる時とは違う笑い方にドキッとするあたし。



「んじゃ、帰ろっか。」



自然に差し出された手をぎこちなく握って歩き出す。

あたしの片想いのはずなのに、お互いの気持ちが通じてるようで。

そんな帰り道はなんだかくすぐったかった。



end

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