・短編C・

□春の充電
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舞美ちゃんが大学生になってから、あたし達は二人暮らしを始めた。



それでわかったこと。



春の舞美ちゃんは、あたしに構えないほど忙しい。



―――――――――――



「ただいまー。」



あれ、今日はいつもより早い。
あたしが最近ふてくされてたのに気づいてくれたのかな。



「舞美ちゃんおかえり!」



玄関まで迎えに行くと、ちょっとやつれてる感じの舞美ちゃん。
去年も『新入生歓迎会』っていう飲み会とかが続いてこんな感じだった。



「大丈夫?」



靴を脱いで家に上がってきた舞美ちゃんの頭を撫でる。
そんな舞美ちゃんは、あたしに微笑んでから抱きついてきた。

舞美ちゃんの方が大きいから普段は『抱きしめられる』なんだけど、今はなんか『抱きつく』って感じで。



「うん・・・・・・。」



「どうしたの?」



「愛理を充電してるの。」



そう言ってあたしから離れた舞美ちゃんは、グーッと伸びてから『充電完了!』と笑った。
舞美ちゃんは3つも年上なんだけど、やっぱりすごい可愛い。

そんな可愛い舞美ちゃんには、もっと充電させてあげようかな。



「舞美ちゃん、『愛理不足』なの?」



「えっ、う、うん・・・。」



あたしからちょっと離れてた舞美ちゃんに詰め寄る。
危ない雰囲気を感じ取った舞美ちゃんは少しずつ後ろに下がるけど、すぐ後ろには壁。

あたしは軽く微笑んでから舞美ちゃんに口づけ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・られなかった。



――プルルル プルルル



シンプルな着信音。
それは間違いなく舞美ちゃんのケータイから聞こえてくる。



「あ、愛理・・・。」



『出ていい?』とおどおどしながら聞いてくる視線。
呆れたようにため息をついてから、あたしは頷いた。



「ごめんね・・・。もしもし。」



まぁ、これから出かけるってこともなさそうだし許してあげよう。
その代わり、この電話が終わったらたっぷり可愛がってあげるんだから。



「・・・・・・・・・うん、もう家だよ。・・・・・・えっ!・・・・・・え、だって・・・今から?」



・・・・・・・・・・・・これはもしかして。
あたしの方をチラチラと見ながら困ってる舞美ちゃんに、すごい嫌な予感しか感じない。



「でもちょっと今日は・・・・・・・・・うー・・・・・・。」



舞美ちゃんがはっきり断れない性格なのは知ってるけど、このままだと本当に今から出かけちゃいそう。

・・・・・・・・・舞美ちゃんも断ろうとしてるし、いいかな。
ちょっと躊躇いはあるけど、それより舞美ちゃんと過ごしたい気持ちのが大きい。

そう思ってあたしは、舞美ちゃんのケータイを取り上げた。



「ちょ、愛理っ!」



「もしもし、お電話代わりました。申し訳ないんですが、舞美ちゃんは『あっ!もしかして愛理ちゃん?』



・・・・・・・・・・・・・・・はい?
なんで舞美ちゃんの友達があたしの名前を知ってるの?

声に聞き覚えもないし。



「そうですけど・・・。」



『やっぱり!あー、じゃあ仕方ないか。舞美にやっぱ来なくていいって言っといて!』



「え?」



『ももも可愛い新入生捕まえちゃったもーん!・・・・・・・・・って、みや!帰っちゃダメ!今から歓迎会パートUやるんだから!!・・・・・・てことで愛理ちゃん、舞美によろしく言っといてね!舞美酔うといつも『愛理に会いたい、愛理可愛い』って惚けてくるから、今日はずっと構ってあげて!じゃあね!』



そう言って一方的に切られる電話。
目の前にはあたふたしてる舞美ちゃんがいるけど、あたしは電話の人が言ったことに驚いて固まってしまった。



「な、なんだって?」



「えっと・・・・・・とりあえず、来なくていいって・・・。」



「本当!?良かったぁ!」



・・・・・・・・・・・・やっぱり、舞美ちゃんは可愛い。
今みたいに無邪気に喜んでるところとか、一緒に住んでるのにあたしがいないところで『会いたい』とか『可愛い』とか言っちゃうところが。



「舞美ちゃん。」



名前を呼びながら、今度はあたしから舞美ちゃんを抱きしめる。
昔と違って、ほとんど変わらない身長差。

すごい近い距離に気づいた舞美ちゃんが真っ赤になった。



「あ、愛理・・・?」



「今日はずっと一緒にいようね。」



そう、電話の人に頼まれちゃったからさ。
頼まれなくても一緒にいるつもりだったけどね。

心の中でそう呟いてから、狼狽えてる舞美ちゃんにキスをする。

舞美ちゃんがしばらく『愛理不足』にならないように、ゆっくり大事に舞美ちゃんに愛を注いだ。



end

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