・短編I・

□初愛
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きったねぇ街に見つけた、綺麗な花だと思った。
こういう人がいるからこの街はまだ生きていけるんだ。
そう思ったのに。

『…したいの?いくらあるの?』

ハルがずっと見つめていたせいで目が合ったその人は、綺麗なままそう言った。
綺麗なままなのに、このきったねぇ街を作ってる奴等と同じようなことを。

悔しかった。
こんな綺麗なのに、そんなことを言わせるこの街が憎くて。
この人を救いたいと思った。

たとえ相手が望んでいなくとも。

『…もしかして、もってないの?』

だけどハルにはそんな資格なかった。
この人を養う金を持ってなければ、一時を買う金すらない。
この場から逃げたくなった。
ちっぽけな自分に嫌気がさした。

だけど、この人がそうさせてくれなかった。

『…いいよ。あなた、綺麗だし。お金なくても』

こうして、ハルと鞘師さんの関係は始まった。



―――――



最初、ハルは鞘師さんとしたいわけではなかった。
そういうつもりじゃない、と何度も伝えた。
だけど、それなら鞘師さんは会わないと言って。

体を重ねていくうちに、ハルの感情は変わった。

鞘師さんの口を塞ぐようになった。
鞘師さんの腕を封じるようになった。
消えてしまいそうなこの人を、ハルに縛り付けたいと思うようになった。

それで良いと鞘師さんは言う。
むしろそっちが正解なんだと。

鞘師さんは愛を知らない。
愛から逃げる。
愛を受け取らない。

愛を信じてない。

それを変えたいとは思うのに。
なかなか上手くいかなくて。

そんな自分がやるせなく。

鞘師さんをそうしてしまった世界が憎い。



だけど、たまに思うのだ。

ハルの優しさに、鞘師さんが微笑むところを見て。

ハルの愛を、鞘師さんが戸惑いながら受け入れるところを見て。



意外とハルは、ちっぽけではないんじゃないかと。



道はある。
まだまだ時間もある。


ゆっくり愛を注いで。


ハルはいつか鞘師さんを救う。



たとえそれが自分勝手なことだとしても。



初めて愛した人を、ハルは救いたい。



end
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