・短編G・
□海賊パーティの憂鬱
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始まりはいつも、一通の招待状。
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「うっわ!また来たよ!」
「あー…もうそんな時期か」
甲板に出ると、そんなちっさーとなっきぃの声が聞こえた。
おそらく郵便物が届いたんだろう。
大きく広げてどれが誰に宛てられたものか分別してる。
そして二人が、いや、理由はわからないけどあたし以外の船員みんながこんな反応をする郵便物は一つ。
近隣の海賊たちがその日だけは敵味方関係なしに盛り上がろう、ということで半年に一回開かれるパーティの招待状。
「舞美ちゃーん、また来たー」
あたしが来たことに気づいたちっさーがその招待状を持って、とても嫌な顔をして渡してくるのを苦笑いで受け取る。
なにがそんなに嫌なのか。
ただのパーティだ。
むしろ嬉しがっていいものじゃないか。
「あー!!また来てたの!?」
「はぁ…それ見るだけで気疲れする…」
中にいた舞と愛理も出てきてそんな反応。
せっかく招待してもらってるのに、こんな反応ばっかりじゃダメだ。
ここは船長としてビシッと言わないと。
「こら、みんな!せっかくの招待状なんだから感謝しないと!なんでそんな反応になっちゃうかな!」
腰に手をあてて船長っぽくお叱り。
たまにはビシッと言ってやるんだから。
そう思っていたのに、なんだろう不思議な感じ。
向けられていた視線は床に。
ガヤガヤしていた空気はシーンと。
あれ?と口に出す直前。
「「「「誰のせいだと思ってんの!!!!」」」」
銃声より大きく響いたのは息ぴったしな四人の声。
―――――
「まず目合わせないこと」
あたしの左前でなっきぃがそう言う。
「船長目力強いからそれだけでその気になっちゃう人もいるんだって。だからなるべく人のいない空間見つめたりキョロキョロしたりして」
「はーい…」
何をそんなに心配してるのか。
いくらここにいるみんな海賊だからって、目が合った瞬間バトル!なんてことにはならないだろう。
しかもパーティだ。
仲良く盛り上がろうってパーティなのだ。
「まぁ、目が合いそうになったら出来るだけ舞が目線ブロックするから」
あたしの左後ろで舞がそう言う。
「今後ろにいるのにどうやってブロックするんだろって思ったでしょ?こうだよこう」
「うわぁっ!」
舞のその言葉の直後、視界が真っ暗になる。
そして背中にのし掛かるなにか。
いや、なにかではない、舞だ。
「こらっ、舞!」
「こういうことだからね」
そんな舞の言葉を合図にパッと視界が明るくなる。
いきなりの行動に騒いでしまったため周りの目が痛い。
誤魔化すように笑ってから、文句の一つでも言ってやろうと左後ろを見るけど舞は知らんぷり。
「もう…!」
軽く頬を膨らませながら歩みを進める。
すれ違う度に他の海賊団があたしたちを見るのは、やっぱりさっき騒がしくしたからだろうか。
そうは言っても他の人達だって結構騒いでるのになぁ。
というかパーティなんだし、騒がなきゃいけないところだしね。
「舞ちゃんのブロックが間に合わなかったら千聖が相手に飛びかかるかんね」
あたしの右後ろでちっさーがそう言う。
「それでも間に合わなかったらあたしが相手の目を潰す」
あたしの右前で愛理がそう言う。
ちっさーのはまぁ人柄的にふざけてるだけかと相手方も思ってくれるだろうからギリギリセーフだとして、愛理のは完璧にアウトだ。
そんなことされたらそれこそパーティ会場で戦闘だ。
「二人とも絶対そんなことしないでね…特に愛理」
まったくこの子たちは過保護すぎる。
おそらくパーティ会場で争うのがすごい嫌なんだろうなぁ。
それで極力きっかけになることは避けたい。
そういうことだと思う。
良い子たちだ。
と、感動してると、あるものが目に入る。
「…ちょっと行ってくる」
「船長!?…あっ、待って!」
なっきぃの制止には応えず目的の場所に素早く近づき鞘をつき出す。
左右から振り下ろされた抜き身の剣があたしの鞘に引っ掛かる。
「なっ!?」
「なんだあんた!」
「騒ぎ方が間違ってますよ、お二方」
にっこり笑って鞘を取り下げる。
困惑したような表情をするのは、おそらくなにかくだらない理由で争い始めた違う海賊団同士の船員だろう。
「剣技を披露したいというのなら、この私がお付き合い致しますが。ただし外で」
この場はうちの船員達が争い場にしたくなくて必死に守ってる場なんだから。
こんな私闘に汚されては困る。
あたしは可愛い仲間達のためなら別にパーティに出なくてもいいし。
「…悪かったよ」
「…すまねぇ」
「わかってもらえたならよかったです!それでは楽しいパーティを」
渋々とだけど、それぞれ自分の船長に目で制されて引き下がってくれた。
よかったよかった。
無駄な争いを避けることができて。
「お久しぶりです。相変わらず素敵な方ですね、舞美ちゃん」
二人を見送っていると後ろから声をかけられる。
聞き覚えのある声だ。
誰かわかって笑顔で振り返る。
「真野ちゃん!久しぶり!…っ舞!?」
「うりゃっ!」
「舞ちゃんこら」
真野ちゃんに飛びかかろうとした舞をなっきぃが止める。
ちゃんと止まったことに安心して改めて真野ちゃんに向き合う。
「他のお仲間も相変わらずとっても元気ですね」
「本当みんな元気すぎて…でも良い子たちですよ」
「ふふっ、舞美ちゃん優しいっていうか甘いからなぁ」
どういうこと?と聞こうとした瞬間、真野ちゃんの背後にギンギラギンと輝く瞳。
明らかに獲物を狩ろうとしてる目。
「ちっさー!!」
咄嗟に踏み出して真野ちゃんの肩越しにちっさーの腕を掴む。
しょんぼりとしたちっさーを確認してから、真野ちゃんとの距離を確認。
「わっ、失礼!」
その距離5センチ。
驚いたのか少し赤らんだ頬が見える。
慌てて離れようとした時、今度はあたしの背後から聞こえてくる声が。
「くらえ」
愛理の声。
もしかして、さっきの言葉通りだと言うのなら。
「愛理っ!」
目潰しがくる、そう思って真野ちゃんの顔の前にパーにした手を出す。
次の瞬間、手の甲に感じたのは………なにかの汁?
「うあぁぁ…!!」
あたしの目の前には唸りながらうずくまる真野ちゃん。
ポカンとしながら振り返って愛理を確認。
舌をべーっと出しながら手に持ってるのはレモン。
「まったく…愛理、悪戯しちゃダメでしょ!」
「はーい」
明後日の方向を見ながら気の抜けた返事をする愛理にため息。
そしてしゃがみこんで真野ちゃんに声をかける。
「ごめんね真野ちゃん…大丈夫?」
「だ、大丈夫です…」
「みんな悪戯っ子で…」
「今回は…私の負けです…」
「え?」
「覚えてなさいっ!」
立ち上がった真野ちゃんは目を擦りながらそんな捨て台詞を吐いて去ってしまった。
なにか悪いことをしてしまっただろうか。
それにしてはあたしの向こう側を見ていたような。
何の気なしに振り返る。
そこにはみんなでハイタッチしたりガッツポーズしてる仲間達が。
「なっきぃ…愛理…ちっさー…舞……」
「ちょっ、早貴なんもしてないっ」
「舞美ちゃんが鈍感なんだもん」
「舞美ちゃんが悪いんだもん」
「舞たちが守んなきゃ」
「こらっ!反省しなさいっ!」
真っ先に逃げる三人と、つられて逃げるなっきぃ。
そんな4人を追いかけ回しているうちにまた会場中の視線が集まる。
気になったけどあたしたちの誰も、この追いかけっこを止めることができなかった。
だって、誰とどんなパーティをするよりも、あたしたちは仲間内でこんなくだらない騒ぎ方をするのが好きなんだから。
end