・短編H・

□高校生のお勉強
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「あーゆーみーちゃーん」

「まだ始めて10分ですよ」

鞘師さんが高校生になった。
学校が始まる前に高校ではどういう勉強をやるのか知りたいと言われて、勉強会を開いたのだけど。

「なんかー…やっぱ良いかなーって」

いつもより少しふにゃふにゃしてる鞘師さんはそう言う。
おそらく眠くなってしまったんだろう。
寝かせてあげたいと思うけど、せっかく勉強会を開いたのだからせめて一時間はやりたいと思うのだ。

「もうちょっとやりましょうよ」

「えぇぇ…じゃー、音楽!」

鼻歌をし始める鞘師さんにため息。
もうだめそうだ。
いやもうちょっと。
甘やかしすぎはいけない。

「だめです。数学です」

「1たす1はー?」

「2ー!じゃなくて…」

脱力しながらも切り替えて、だいたいここから始まるだとか、こういうの覚えておくといいだとか教える。
だけど、聞いてる気配は感じない。
感じるのは唇にびしびし来てる視線だけ。

「……なんですか」

ついに我慢できなくなって聞く。
黙って私の唇を見てた鞘師さんは特に表情を変えずに口を開いた。

「亜佑美ちゃんの唇好きだなぁ」

「…何を今さら」

そんなこと知ってる。
私が鞘師さんを意識するようになったのは、その鞘師さんの発言があったからで。
そう思えば鞘師さんが隠し事できないタイプでよかったと思う。
たぶん、普通の人ならあんまり言わないことだから。

「ぷるんぷるんしてて、色っぽい!」

無邪気にそう言われて、勉強会を諦めた。
もう集中する気なさそうだし。
それに、こっちとしても違う気が起きたというか。

「私も鞘師さんの唇好きですよ」

そう言って唇をじーっと見つめる。
それに気づいて鞘師さんはサッと顔を背ける。

「いやいやいやいや…」

手を横に振りながら苦笑い。
そんな鞘師さんに構わず私は鞘師さんの唇に手を伸ばす。

「薄くて、可愛くて、私がこうやって触ると閉じちゃうところとか」

「っ…や、ま、待っ」

「その気にさせたのは鞘師さんですよ?」

下唇をつーっと撫でる。
開きかけた唇はまた固く閉ざされる。
鉄壁のようで、まったく防御できないことを私は知っている。

鞘師さんに褒められた唇を鞘師さんの唇に重ねる。
少しノックしてやると、ほらすぐに開く。
ゆっくりと体に体重をかけていくと鞘師さんは抵抗もなしに後ろに倒れた。



机の上の教科書が、パタッと閉じた音が聞こえた。



end

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