・短編G・
□小リーダー
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「お待たせー」
「なっきぃお疲れー」
「おっつー」
「おつかれーらいすー」
今日はメンバーみんな少し早めに仕事が終わる予定だった。
だから久しぶりに全員でご飯でも食べに行こうかということで、一人ずつの撮影が全員分終わるまでみんなで待ってることに。
リーダー、舞、愛理、千聖の順番で順調に終わって、最後の早貴も何事もなく終えて、楽屋に帰ってきて、今に至る。
楽屋内では千聖と舞、そして珍しく愛理も一緒に三人で騒いでいた。
リーダーの姿が見えない。
確か、早貴が楽屋を出る前はソファーに座ってたはず。
寝ちゃったんだろうか。
「リーダーどこも行ってない?」
「ソファーで寝てるんじゃん?」
舞の返事を聞いて、入り口からは確かめられない位置にあるソファーに近づく。
お疲れで寝てるところ悪いけど、お腹が空いてる。
遠慮なく起こさせてもらおう。
「リーダー、全員撮影終わっ……あれ?」
リーダーが寝てると思われたソファーには、小さな女の子が横たわっていた。
推定3歳。
見覚えのない子だ。
スタッフさんの子供だろうか。
「ねぇ、この子誰の子?」
「へー?」
「どんなボケだよ。矢島さんちの子供でしょ」
「矢島さんちの舞美ちゃんでしょ」
たぶん会話が噛み合ってない。
みんなリーダーがここにいると思ってる。
ちゃんと状況を説明しないと。
………って、おかしくない?
小さい子を預けられて、その子を放っといて遊ぶ人達じゃない。
そんなのは長い付き合いでわかってる。
千聖なんかが率先して世話をやくに決まってる。
じゃあなに?
この子誰?
「はい、ちょっと集合!」
「はーい」
「なんだよぉ。早く起こせばいいじゃんかぁ」
「…?」
素直に集まる一人と文句言う一人と黙って様子をうかがってる一人。
「え?この子誰?」
素直に集まった一人が、いち早くこの状況を理解。
さすが愛理。
頼れる愛理。
「なになに?どゆこと?」
様子見してた一人も集まってくる。
女の子を見てポカーンとしてるってことは、三人がぐるで騙してるわけじゃないってことだ。
「もう!みんなしてなんだよぉ!……えぇぇえええ!?」
最後の一人が集まって、大声を出す。
あ、さすがにやばいかもと思ってからじゃ遅かった。
千聖の声で女の子が目を覚ます。
「……うぅっ…ひっく…うあぁん…」
思いがけずそんな大きくない声で地味に泣き出す。
早貴と愛理と舞であたふたし始めると、千聖が慣れたように女の子を抱っこした。
「はーい、どうしたどうした。ごめんね大きい声出して」
よしよしぽんぽんとあやす。
慣れた様子に三人で感心するも、女の子は泣き止まない。
「ち、千聖でも効かないとかもう無理だ…」
愛理が呟く。
総意だ。
千聖が色んな手段であやしてくれるけど、いっこうに泣き止まない。
みんなで囲んでどうしようどうしようとしてると、女の子が手を伸ばす。
その手の行方を見守っていると、早貴の手が掴まれた。
「……ん?」
「なっきぃ!交代!」
ひょいと預けられる。
なにをしても泣き止まなかった女の子が泣き止んだ。
もはや、笑った。
「おぉぉおおお!!」
愛理が感嘆の声をあげる。
千聖が少し悔しそうに、でも安心したように一息つく。
そして、ずっと黙ってた舞ちゃんが一言。
「……これ、舞美ちゃんじゃね?」
「いや!舞美ちゃんだったらあたしを選ぶはず!」
「愛理黙って」
「はい」
沈黙。
誰も、肯定もしなければ否定もしない。
信じたくない気持ちと、なんとなくメンバー的な勘が。
たぶんリーダーなんだろうなぁって。
みんな思ってて。
でも、そんなことあるわけないじゃんって気持ちがあって。
でもでも正直顔立ちリーダーだしおそらくリーダーだし絶対リーダーだし。
「……う、受け入れて、進もう」
リーダーなき今、早貴がみんなをまとめなきゃ。
指針を示さなきゃ。
「…一ついい?」
「なに、愛理」
「だ、抱っこさせて…!」
相当我慢してたんだろう。
切羽詰まった愛理の表情に、首を横に振ることは出来なかった。
「舞も!」
「千聖も!もう一回!」
実際、めっちゃ可愛い。
さすが℃-uteの誇れる美人リーダー。
小さくなったら究極の可愛いになるのね。
勉強になりましたわ。
三人に小リーダーを預けて、これからのことを考える。
とにかく元に戻さないと。
ていうか何が原因でこうなったのか。
調べなきゃいけないことがたくさんある。
これは早貴達の手に負えるのだろうか。
というか本当にこれはリーダーなのか。
受け入れるとか言ったけどさ、正直幼児化なんてテレビの中の世界だし。
ただの早貴たちの勘違いで、この子はリーダーの親戚とかでリーダーがドッキリとか仕掛けてるのかもしれないし。
そうだよ、たぶんそうだ。
そういうこと…
「あいぃ…」
「…へ?」
「なっき…ちさ…まいちゃ…」
「名前…あたし達の名前、わかるの?」
あぁ、嘘でしょ。
「あなたの名前、聞いてもいい?」
「……まいみ…」
もう、どうすれば。
「………可愛いぃぃいいいい!!!」
「岡井家に連れて帰りたい!」
「ちょー可愛い!やばいんだけど!」
……え。
ちょっと待ってよ。
いや、いやいや、ちょっと待とう。
こんな状況で、その感情優先させる?
確かにめちゃくちゃ可愛いよ?
わかってる、ナカジマよーくわかってます。
でもそれどころじゃないじゃん?
℃-uteの一大事じゃん?
これからリーダーはこの小さい姿で活動しまーすとか、あり得ないじゃん?
違う層のファンは増えるかもしれないけどパフォーマンスもなにも出来ないじゃん!?
「舞美ちゃんはぁ、愛理と結婚するんだよねぇ?」
「…うん…」
「いや!でも!お嫁さんにするなら千聖なんだよね?」
「……うん…」
「舞美ちゃんはさ!ずっと舞の側にいるんだよね?今までめんどうみてもらってたし、これからは舞がみていくしさ」
「………うん…」
自分が今何をすべきか。
冷静になってみれば簡単だ。
小リーダーをメンバーから離して、もとに戻る方法を探す。
これしかない。
小リーダーから送られてくる助けて!な視線を感じては、これしかないのだ。
「……あっ!UFO!」
「は?」
「ナカジマなに言ってんだ急に」
「はっ…!そうやってあたしたちの気をそらしてその隙に舞美ちゃんを独り占めしようという作戦!?」
「や、愛理じゃないんだし違うっしょ」
「おいナカジマ!それ面白いと思ったのか!?そうなのか!?」
もうどうにでもなれ。
なにかを悟った表情をしてたと思う。
小リーダーを抱き抱えて走り出す。
なにが起こったのかわからなかったらしい三人が一瞬固まる。
その隙で充分。
全力でダッシュ。
「マジで逃げた!」
「ナカジマぁぁあああああ!!!」
「舞美ちゃぁぁああああん!!!」
そんな声を背に、逃げて逃げて逃げまくる。
そしてついに振り切った。
有り得ない。
すごい、最近一番の疲れかもしれない。
「なっき、なっき」
小リーダーに腕を叩かれて、ようやくぎゅっとしすぎたことに気付く。
ごめんね、と離してやって頭を撫でる。
さて、これからどうしようか。
「小リーダー…どうする?なんでそうなったのか、わかんないよねぇ?」
「…んやっ」
「ん?」
「りーだー、ちがう、まいみ」
あぁ…どうでもよくなるくらい可愛いんだけど。
ずるいよね、小さい子とかただでさえ可愛いのに、リーダーだよ?
そりゃもう、可愛いよ。
どうしよ、どうでもよくなってきたかも、本当に独り占めしてやろうか。
とか言ってないで、まぁとりあえず、呼んでみようか。
「舞美、ちゃん」
「もっかい!」
「…舞美ちゃん」
「えへへ…はーい!」
腕を勢いよくあげて、満面の笑み。
あー、可愛いな!
ムカついてきた!
その可愛さで思考力が低下するんだよ!
早く元に戻る方法考えなきゃいけないのに!
「なっきぃ!見つけた!舞美ちゃんを返せぇぇえええ!」
「うぉぉおおお!!!」
「ちょ、愛理、千聖、そんなに勢いよく行ったらなっきぃ死んじゃ…あーあ」
いつの間に追い付いたのか、いや、見つけられたのか。
それに気付いた時には手遅れだった。
必死な形相をした愛理と、走ったせいかテンションが上がりきってる千聖。
二人が全力でタックルしてくるんだもん。
ナカジマ、死亡。
最後に視界に映ったのは、楽しそうに笑う小リーダー、もとい舞美ちゃん。
うちのリーダーが楽しそうなら、まぁ、いいですわ。
―――――
「…ぃ!…っきぃ…!なっきぃ!」
「うぉわ!!でかっ!?」
「えっ?」
「も、戻ったんだ!」
「へ…?」
目の前には、大きい、というか、元のサイズのリーダー。
不思議そうな顔をして早貴を見てる。
え、なに、どういうこと?
自分が今置かれてる状況を把握すべく、辺りを見渡す。
楽屋、あたしが寝転がってるソファー、愛理、舞、そしてリーダー。
「あぁぁ…夢、か…」
脱力。
なにこれ、超疲れた。
夢のくせに、体力奪いすぎだし。
そりゃそうだよね、人が小さくなるわけないじゃん。
いち早く夢だって気付くべきだった。
そしたらこんなに疲れることもなかったろうに。
本当ばかだ。
「夢見てたの?」
「うん…疲れる夢…」
「そっかぁ…お疲れさま!で、お疲れのところ悪いんだけど、もう行った方がいいよ、撮影、もうすぐちっさー終わるから」
まだ撮影も終わってなかったんだ、そうだ。
これからご飯だし。
あぁ、疲れた。
とりあえず体を起こす。
そして、起こしてくれたリーダーにお礼を言う。
にこにこリーダーは頷く。
うーん、なんだか。
「……舞美ちゃん、楽しい?」
「…うん?楽しいよ?」
「あそ…。じゃあ、行ってくるね」
楽しいっていうか、名前呼ばれてちょっと嬉しそうな顔してたから、まぁそれでいいや。
なんだかんだ、この℃-uteってグループは、リーダーが楽しかったり、嬉しかったりすれば、それで良いのかもしれない。
あくびを一つ残してドアに向かう。
嬉しそうなリーダーの顔を思い出して、ちょっとにやけた。
end