・短編G・
□不機嫌バリアvs爽風
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「おはよ」
不機嫌バリアを張った。
今日は朝から上手くいかないことが続いて。
少し寝坊したり、小指の爪が割れたり、履こうと思っていたタイツに穴が空いてたり。
なんとなくむしゃくしゃすることばかりで、その上楽屋に入る前にマネージャーさんから機材トラブルで一時間待ちだと言われ。
とてもはしゃげるテンションではなかったのだ。
ベリーズのメンバーは、いつものやつだと気づいて一言返すだけで近づいてこなかった。
しかし、今日計算間違いだったのは、℃-uteと同じ楽屋だったということ。
「みや、おはよう!」
運ばれてきた爽やかな空気は、不機嫌バリアをすり抜けてあたしに直撃。
ムッとして運んできた本人を睨むけど、睨まれてることに気付いてないのか満面の笑み。
「……はよ」
たぶん、気付いてない。
じゃあ仕方ない。
素っ気ない態度を取り続ければ気づくはず。
こいつが気づくまでの辛抱だ。
「あのね、今日朝起きたらルーキーが…」
適当に相づちを打ちながら舞美の話を聞き流す。
鈍感な舞美はなかなかあたしの不機嫌に気づかない。
そういうの気づけないでリーダーなんて出来るわけ?と心の中で悪態をつきながら睨むと、バチっと目が合った。
こんな不機嫌そうな顔してるわけだしこれなら気づくだろう。
「そしたら次はコロンがね…」
ニコッと笑ってから目を逸らし、話を続ける舞美。
あたしはしばらく固まって何も考えられずにいた後、沸々と怒りが込み上げてくるのを感じた。
仮にもあたしと舞美は恋人同士という関係だ。
それなのに、こんなに近くにいるのに、あたしのことがそんなにわかんないってありえる?
いや、ありえない。
ない。
ムカつく。
「それからアロマが…」
「あのさっ!まいっ「みやの手、綺麗だねぇ」」
呑気に話を続けてる舞美に文句を言おうと口を開いた途端。
あたしの手を掴んで、眺め始める舞美。
は?なに?今愛犬の話してなかった?
「手のひらも、手の甲も、指も、爪も」
「はっ…?」
「小指の爪、ちょっと割れてる」
ふふっと笑ってそう言い、そこに口付ける舞美。
戸惑うあたしを置き去りに、舞美の口から出た部位が順になぞられていく。
舞美の綺麗な手が。
ゆるゆると、優しく、大事そうに。
「もちろん、手だけじゃないよ?」
また、バチっと目が合う。
ちょっと待ったちょっと待ったちょっと待った。
こいつ、もしかして…
「顔も綺麗。だから、睨んでたり、そんな顔してるともったいないよ」
あたしの眉間を親指でグッと押して、さらに顔を近づけてきて、なんとなんの躊躇もなく唇にキスしてきた。
「っ…にしてんだっ!」
肩を押し返して距離を取る。
顔が熱いったらない。
ていうかここ楽屋だ。
うっわみんな不自然に目そらしてる。
「不機嫌だぞーオーラなんて出しちゃだめだよー」
「やっぱっ…わかってたのにそんなっ!あーもう!!」
舞美はあたしの不機嫌バリアなんてわかってて、わざとわからないふりして、こうやって…。
確かに、不機嫌バリアはなくなってしまった。
混乱と恥ずかしさと…ちょっとした嬉しさで。
「いやでもこんなとこでとかっ…」
「してやったり!」
「してやったりじゃないから!」
信じられないけど。
ムカつくけど。
あぁもう!って呆れるけど。
頬は勝手に緩んじゃうんだから仕方ないのかもしれない。
「みやが笑った!!!」
まるで『クララが立った』時のようなキャプテンの声に、楽屋中から拍手が聞こえてきた時には、今までの自分の態度を少し反省した。
そして、舞美の偉大さを改めて実感した。
end