短編集

□一緒に見た景色は
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ボクが自転車に乗ったのは何年も前だ。 
誰かの後ろに座って乗ったことはない、というかその時同い年の男の子は嫌いだった。



いつの頃か。ボクがまだ髪も長く華やかな服を着ていた日。

今乗っている相棒よりもとてもゆっくり進みながら。
見慣れている景色を眺めていたときは、まだ自分がこんな思いで、こんな覚悟で生きていくとは思いもしなかっただろう。








ボクは今、シズさんと一緒に観光している。 
エルメスは今日は寝てばかりで。陸くんとティファナちゃんは留守番らしい 





「シズさん」
「え、なんだい?」

「どうです?この国は移住しようという気になれますか?」

この国はやけに自転車が多い、サイクリング。が流行っているとかさっき中年のおばさんが言っていた。
別に治安は悪いわけじゃないが、なにやらすぐに流行を見つけてはすぐ三日後冷めて、その繰り返しだそうだ
それも国民全員その流行に乗るのに必死と面倒臭そうだ。

けれどシズさんはボクが思っているのと違う答えだった


「うん……実は最近考えを改めててね」

シズさんは腕をくんだ。 
「移住という以前に、今まであの船に住んでいたティーには、色んな世界を見てもらいたいと思っている」

「美しくないものを見るかもしれないのに?」
ボクがさらっと言ったらシズさんはボクをみて微笑んだ 

「それでも、さ。あの娘にはなるべくすべてを見てほしい。俺達人間のあらゆるものを。」 

ボクは真顔で言った。
「シズさんは変わってますね」

シズさんはだろうね。とやっぱり笑ってこっちを見た

なんだか不思議だ。

何せ旅のなか、旅人同士でこんなに親しくなって、親しくなったなか旅の同行者となるなんて、エルメスも意外だったろう

シズさんはどう思っているのか、死ぬつもりだった人間が今こうして命を救われてしまった人間と旅していることに。 

彼は悪人には容赦がないが変なところでお人好しだ。 
あまりボクも言えないかもしれないけれど。 

「シズさんってティファナちゃんが大事なんですね」

「というより、ほっとけない。かな」

「ボクにとってはあなたもそうですが」

「?」

彼は時には自分をも犠牲にしかねないから。
まさか、死にかけているのにあの娘を助けようとするとは。 

ボクには考えられない 
旅人は自分を優先するのだから 
ボクはまっすぐシズさんを見た
「あなたはボクがいないとまた誰かのために死にそうだ。」

シズさんは少し驚いた顔をした。「……誰かのため…か。家族の復讐も。ティーとの旅も。俺のただの自己満足なのかもしれないのにかい?」 

「…ボクはあなたの家族に会ったことがないし、死人には会えないのでどう思っているかはわかりません。」 

ボクはシズさんの目を見つめ。 「でも、ティファナちゃんは、あなたを大切に思っている。かけがえのない恩人なのだから。」

その時一瞬。自分の過去をボクは思い出した気がした。
ボクを助けた旅人を。 

「ボクがそれを保証します。根拠は今は内緒ですけど」

ボクはそう言って笑った。 
多分笑った顔にはかすかに悲しさも交じっていた。 
それをシズさんは気付いたのかもしれない 

「ありがとう。キノさん……」

「お礼を言われたくて言ったわけではないですよ。」

「自己満足、さ。そろそろ暗くなるし早めに帰るためにあれに乗って帰らないかい?」

シズさんはある店を指差した 

それはレンタル製の自転車屋で住所さえ教えれば回収もしにくる店のようだ。 

「お金は俺が払う。エルメス君がキノさんは節約家だと言っていたしね。」

そういえば、いつの日か二人きりで話してるのを見た気がする
「(……おしゃべりめ…)」
ボクは帰ったらタンクを蹴ろうと心に誓った。


「節約家のボクに提案があります。」
「なんだい?」













2人乗りは初めてだった。ボクはこがずに後ろに座っている
風が吹いて心地いい前でシズさんがこいでいるけれど、全然力んでないようだ

「キノさん、どう?」

「どうと言われてどう答えるべきでしょうか……」

「あははっそうだな」

「やっぱり変わってますね、シズさん。」


でもボクはそんな変わっている人と話していて 


「あ……」
「……綺麗ですね」


ボク達が目をやった先には
赤い木々の葉が風で一気に舞って踊っている中、夕陽が一段と光って綺麗に降りていくのが見えた 
「キノさん……内緒と言っていた根拠。いつか教えてくれるかい?」
「……多分、いつか教えるかも、しれませんね。」


ボクは……そんな変わった人と、見た景色はなんだか心が暖まった、気がした。 
一人でいるときとは違う感情だとおもう


ボクは目を細めてそれを見ていたら




「それにしても」

「なんです?」

「2人乗りして思っていたんですが、キノさんはとても体重が軽いですね。普通の女の子より軽いと思いますよ」




ボッ。 




夕陽でよくわからないとは思うけれど。 
そう言われて顔が熱くなって目が大きく開いて。なんだか胸がくすぐったかった

「(…………女の……子…。)」

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