Novel
□きっかけの国
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気まずい雰囲気の二人の旅人はお互い向き合う席のテラスに座っている
「えっと……すまないねキノさん、急に話し掛けたりしてまた会えると思わなかったものでつい…」
「(また会えると思わなかった?それはどういう意味で……いやそうじゃない)」
「……いえ、いいんです」
可愛くない返事で会話はまた途切れた
「……キノさんは自分を女らしくないと思っているのかい?」
その言葉にキノは驚き、けど目をそらしながら
「……そんな振る舞いをしてるつもりもありませんから」
「確かに俺も最初は間違えてしまったしね。すまない」
とシズは苦笑した
「でもね」
「?」
「君が女性とわかってそれから俺の傷を手当てしてくれてた時、俺はキノさんがとても女の子らしくて綺麗な顔だなと素直に思ったよ」
シズはただ微笑んでさらりと言った
「…それはどうも」
キノもあくまでさらりと返した
内心はとても心地よい気分だったが
「おやおや旅人さんら、恋人同士で旅をしてるのかい?幸せだね」
急に白い髭のを生やして杖をついてる老人がそう割り込んできた
「ち、違いますよ!おじいさん。彼女とは偶然出会っただけです」
必死に弁解しているシズの言葉はあまり聞かずそうかいそうかいと老人は済ました
「そんなことより旅人さん達は夜に流れるオルゴールを知ってるかね?」
キノとシズは頷いた
シズも店の人に聞いたらしい
「あれはな、ワシが作ったものなんじゃよ」
「そうなんですか?」
キノが言うと
「キノさんは聴いたことあるのかい?俺は話だけでね」
「あ、はい少しだけ」
「だったら二人とも夜聴くといい、気に入ったらワシの店に来てくれ、タダであげるよ。」
シズは遠慮がちに
「でも……」
「ワシがそうしたいんじゃ人の善意は無駄にするな」
そう言うと店の場所だけ教えて老人は去っていった
キノは老人を不思議に思っていたが
「キノさんよかったら一緒に夜その曲を聴かないかい?」
「…………。はい、いいですよ」
また可愛くない返事をして内心嬉しさがこみ上がっていたのですぐ忘れた
老人は一人店のなかで
「いいきっかけに……な」
そうつぶやきながら二人の旅人を思い出し、微笑んだ