小説
□ふれたい、さわりたい
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最初はオモロい子やなぁと思っとった。
からかいがいがあって、話してるだけで楽しいお友達。
それが、いつ頃からかだんだん気になりだして目で追うようになっとった──今ならはっきり断言できるで。
俺は桜乃ちゃんが好きや……ってな。
しかし今、そのことが、俺に大問題を浮上させてるやなんて誰が想像つくやろ?
──本当に勘弁してくれ──
──「あのな?桜乃ちゃん。」
平日の夕暮れ時……学校の生徒は皆、帰り支度を整え終わり下校している時間。
セミロングの癖っ毛をかき揚げながら、氷帝学園のテニス部レギュラー三年の忍足侑士は、溜め息と共にそう呟いた。
いつもは余裕に彩られている鋭いつり目気味な目も今はただ、困惑と焦燥に染められている。
彼が今いるのは玄関ではなく、自分の教室。
もちろん、学年でも常に良い成績を残す彼が勉強の居残りで残っているという事は断じて無く、また上の様子からも友達と和気あいあいと喋っていて遅くなって……ということもない。
更に言ってしまえば彼は自分の机にすら座っていないのだ。
忍足は何も言わず、自分の席の真向かいに腰を落ち着けて座っている。
視線をある一点に向けたまま微動だにせず。
そして、彼が今名前を呼び熱い視線を送っている相手こそ、今まさに彼の席を占領している張本人。
机に突っ伏して安らかに寝ている三つ編みの少女、竜崎桜乃、その人だった。