捧げ物

□出会いは突然に
1ページ/8ページ

テニスは精神統一の一つに似ている。

敵を前にしながらも、常に向き合うは己の心……そう、俺にとって、テニスは自分を鍛えることと繋がるのだ。

だから、甘えは許されない。
日々訓練あるのみ。
そこに、緩みは不必要だ。

そう、己の強さ以外のことは考える必要は……ない。


『ガタン、ゴトン、ガタン……』

(フム……何時もより狭いな。やはり、この時間帯に乗ったのは間違いだったか。)

休日。人々で賑わう……いや、正確には溢れ返る電車の中。
立海大のテニス部副部長である真田弦一郎は、自分の学校に向かう為にそこにいた。

短い黒の髪、キリッと上げられた芯の強そうな眉。
両の目は鋭く、射抜かれた相手は竦みあがりそうな程。
見た目も雰囲気も威風堂々としている彼は、一見すれば大人……いや、少し年上に見られがちだが、これでも歴とした中学三年生である。

真田は今時の若者には珍しく屈強な精神を持ち、自分にも人にも厳しく、また己を鍛えることを何より第一と考えている。

だから、本当ならこの程度の満員電車は彼にとっては何でもないことなのだが………

右を見ても人。左を見ても前を見ても後ろを見ても、人、人、人、人、人の波。

彼自身、混雑することは予想していたが、その予想を遥かに上回った人々の数に、屈強な真田もさすがに辟易していた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ