あなたは、私の輝く星




□□ 金星ーVenusー □□



3週間に及んだ任務を終えて里に戻ったのはつい先程。
早朝と呼ぶにも太陽が昇る時間は未だ先で深夜と呼ぶには少し遅い、そんな時間。
少し長めの任務明け、本来ならば真っ先に訪れる部屋の主も今は任務で居ないと聞いて仕方無く自室へと戻った。

正直、少々疲れが溜まっている。
チャクラの使い過ぎなのだと分かってはいるけれど、昔はこれ位なんて事も無かったのに。
齢三十、もう若くは無いんだなどと情けない事を思いながら重い玄関のドアを開けた。

サンダルを脱ぎ、口布と額宛を外して。
埃だらけの髪も薄汚れた身体も気にはなったのだけれど風呂に入る余力は無い。
それでもせめてベストだけは脱ぎ捨てて少し湿った布団に倒れ込んだ。

もしあの人が里に居たなら。
今頃少し狭くて古めかしい浴槽に身を沈め、その後訪れる幸せで濃密な時間に心躍らせている事だろうに。


(昨日出発だったなんてとんだニアミスだーね…)


そこではたと気付く。
彼は何処へ行き何をして、何時頃里に戻るのか。
その話を聞いた時は余りのショックに茫然自失、何も聞かずに帰ってきてしまったのだ。

帰還予定は非常に気になった。
昨今の情勢を思えばあの人が帰る前に自分宛の任務が舞い込むなんて事態も容易に想定されてしまう。
今すぐ執務室へと確認に戻りたいのに疲れ切った躯は鉛の様に重く云う事を聞いてはくれなかった。


意識はどんどんと暗闇へと堕ちていく。
目覚めたら一番に綱手の元へ駆け込もうと決めてコントロールを手放した。






************






あたたかい。

気持ちいい。


ふわふわの羽毛に包まれてる様な、
ゆらゆらと揺らめく羊水に漂う様な。


不思議な不思議な、幸福感。



「あ、起こしちゃいましたか」



聞き覚えのある優しい響きに薄目を開ける。
未だはっきりとしない意識の中、上げた視線の先にはぼんやりと映るオニキスの瞳。


(え……?)


「未だ寝てて良いですよ?」


急速に回転を始める頭脳。
しかし寝起きのせいか中々本来居る筈の無い人物と現状とが結びつかない。

これは夢?
だって今、自分を胸に抱いているのは―、



「イルカ、せんせ……?」



完全に意識が覚醒し目をぱちりと開いて現状を把握した。
耳に響く鼓動、全身を包み込むあたたかな温もり。
夢じゃない。


「任務お疲れ様です。見た所怪我はなさそうですけど大丈夫でした?」

「あ、うん、俺は平気…って、せんせも任務だったんじゃ」

「片付けてきましたよ、ちゃーんと」


ふわり、目元を翳らす髪を優しい指先が払ってくれる。
何時もは自分が彼を抱いて眠っている為逆の位置から見える様は何だか新鮮で。
顎下から首筋へと続くなだらかなラインに目を奪われごくりと唾を飲み込んだ。


「カカシさん、今日が何の日だか分かりますか?」

「今日?えーと…」


唐突な質問にそれまでの邪な感情を慌てて打ち消す。

最近は任務続きで日付の感覚も曖昧になっている。
イルカ先生の誕生日はとっくに過ぎたし、俺の誕生日はまだ先だ。
今日は何かの記念日だったろうか―?


「あ、」

「思い出しました?」


そうだ。
今日は忘れちゃいけない大事な日。


「お付き合い記念日だ…」


一年前のこの日、珍しく朝方まで酒宴を共にした帰り道。
明けの明星が輝く空の下、俺はイルカ先生に想いを告げた。

大好きで大切で。
だからこそ築いてきた『階級を越えた友情』ってヤツを壊してしまうのが恐ろしくて。
少しでも気を抜けば唇から零れ出てしまいそうな恋心を必死の思いでひた隠しにしていた。



『俺達ゃ何時死ぬかなんて分かんねぇんだからよ、好きな奴にはちゃんと伝えねェとな。自分の思いってヤツをよ』



ただ一人俺の想いを知っていたアスマがくれた唯一のアドバイス。
その一月後、あいつは死んだ。
最愛の女と未だ見ぬ我が子を此の世に遺して。


俺達は忍。
忍とは生と死とを隣り合わせに生きる者で。

数多の死の上に成り立つ生の中で悔い遺す事無く生き抜く為に為すべき事は何か。
アスマが、それを教えてくれた。




「太陽が昇る前に帰ろうって思ってたんです。間に合って良かった」




俺を胸に抱いたまま優しく微笑む姿に熱いモノが込み上げる。

このまま彼に会えずにいたなら自分は今日に気付く事無く一日を終えてしまっていたかもしれない。
だが彼はちゃんと覚えていてくれたんだ。
今日が二人にとって、大切な始まりの日だという事を。



「〜〜っ、せんせーダイスキーッ!!」



あの日から決して変わる事の無い想い
寧ろそれは時間を重ねるにつれてその熱を、強さを増して



「俺ちょっと汚いんだけど…ゴメン、我慢できそに無い」
「汚いのは俺も大して変わりませんよ」



指先から
唇から

溢れて止まないこの想いを、貴方へ




「はぁ…っん…カカシ、さん…っ」

「イルカ先生…好き。大好き…っ」





窓の外
東の空低く輝くは金星

その光が太陽に融けてしまっても猶
愛の女神は2人を包んで―。




end

**********************
記念ssというコトで『よぉし、ウチには無い甘々イチャラブに挑戦だッ!!』と意気込んでみたものの。
蓋を開けてみれば『甘々イチャラブってナニ?オイシイの?』みたいな…ね。(遠い目)
エロのねーラブなんてありえねーってのによ…コレじゃ結局いつも通りじゃねーか…。

こんなしょーもないモンしか書けないワタクシですが、どうか生温かい目で見守ってやって下さいまし(泣)
本当に有難うゴザイマシタ!!



.


[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ