纏うのは闇の色。
この左目を譲り受けたあの日から太陽の明るさなど忘れた。

この躯は所詮容物に過ぎず、唯只管に立ちはだかる者へと向かうのみ。
そして壊れるならば、其れ迄の事。

己の犯した罪に比べれば死など微塵の恐怖も無い。


そうだ。
日の光など、忘れた――。



■■ Killer / Sun ■■




濃密な空気。
汗の匂いと、アレの匂い。


自分の下で荒い息を繰り返す彼の顔は乱れた黒髪のせいでよく見えない。

――きっと素敵な表情をしている事だろう。

隠されたままなのを残念に思い涙と汗で張り付いてしまった其れを指で払う。
現れたソレは、まるで人形の様に無表情で。


ああ 壊れてしまったんだね。

この手が 壊してしまった。


その事実にうっとりと目を眇める。
他の誰でも無い、自らのこの手で、今無気力に横たわる彼を壊した。
血塗られたこの手が太陽の様に朗らかだったこの人を暗闇の淵へと引き擦り込んだのだ。


自分の犯してしまった罪に刹那絶望し、だが次の瞬間には喜悦の声を上げそうになる。


斬り掛かる敵だけでは飽き足らず大切な者でさえも。
親友と呼べた男を見殺しにした次は密かに想い寄せていた彼までも壊してしまうなんて。


なんと己の、罪深い事か。



自分よりは幾分か細い、だけれどちゃんと男の筋肉を備えた腕。
抵抗されはしたが所詮上忍と中忍、彼に勝ち目など無かったのだ。
今は拘束を解かれた其処は蚯蚓腫れと自分の手の痕、滲んだ血が朱く模様を描いている。

ソレを綺麗だなんて思いながらシーツに広がる黒髪に唇を寄せ小さく微笑んだ。
依然遠く此処では無い何処かを見詰めたまま視線の動かない彼の心は、今はどの辺りを彷徨っているのか。
少し使った薬が強過ぎたかもしれない。
若しかしたらもう此方側へは戻れないのではないかと考えて、微笑を更に深くした。



『タイヨウは死んだ この手が殺してしまった』



「イルカ先生…愛していますよ」


動かない彼の顎を捉えて口付けを落とす。
至極穏やかに口をついた愛の言葉、一瞬彼の瞳に生気が戻った気がした。


「……、……」

「……イルカ先生?」


しかし開かれたままの瞳はガラス玉の様に何も象を結んではおらず、呼び掛けに反応する事は無い。
だが僅か、唇だけが弱弱しく何かを告げようと動きを見せる。
彼の意志を感じさせる其れに緊張が走るのを感じた。

読唇術は当然心得ている。
だから彼が何を言おうとしているのかも、分かってしまうから。



『かかしさん あいしてた』



ああ こんな事って――。



その唇が容作る言葉が毒を塗られたクナイの様に心臓をずぶり、突き刺す。
新しく浮かび上がった雫が一筋、彼の頬を伝った。
そして涙は、この、借物の左目にも。





嗚呼、太陽ヲ 殺シテシマッタ

タイヨウ ヲ コロシテ、シマッタ――。 






end
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