‡御伽‡の描く世界

□夕暮れ空と彼
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過ぎていく。
白くて大きな雲が、黒い影を地上に落として。
まるで、ちっぽけな僕をおいていくように、それは過ぎ去っていった。



―どこかの学校の教室。日も傾き、西日が程良く差し込む窓辺に少年が一人。
彼は特に何をするでもなく窓から顔を出し、オレンジ色に染まりつつある青空の中に、ぽつんと浮いている白い雲が流れていくのを目で追っていた。

「‐ああ、きれいだな。」

彼は正直にそうつぶやいた。
きっと他の人から見てみれば、単なる夕暮れ時の風景。どんどんオレンジ色に染まっていく空を見上げても、ただ「眩しい」と、目を細めるだけだろう。
だが、彼は違う。それは元々、彼が空を見るのが好きだったからというだけではない。
忙しかったのだ。色々と重なり、多忙だった。そんな彼がやっと手にした静かな時間。ちょうど夕暮れ時だった静かな風景。

久々に見た空は、彼の目には、儚げでとても美しく見えたのだった。


今、彼が目で追っていた雲が、山を越えて向こう側へ消えていこうとしていた。
彼は立ち上がり、問いかけた。
「お前はどこへ行くんだ?」

返事は無かった。

彼はもう一度、「お前はどこに行くんだ!?」と、叫んだ。

しかし、やはり誰もその問いに答えることは無かった。
雲はもう山の向こうへ消え、静かな教室に彼の声がこだまするばかりであった。―



僕はまだ、あの問いの答えを知らない。

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