僕だけの暗号U

□俺のなかのキミ
1ページ/2ページ






珍しく、雨の音で起きた。

普段じゃ目覚まし鳴っても、誰かに声かけられても起きないから、こんな微かな雨の音で起きれたなんて自分でもびっくり。


また寝ちゃうのもなんかもったいなくて、カーテンを開けて雨が降る様子を観察。


もぅ昼も近いのに暗いなー。雨だとこんなに暗いもんなんだね。



ザーザー雨の音が強い。
そんな中を傘さして歩いてく人。


雨‥傘‥。

自分達の持ち歌が自然と頭の中を流れる。
あの歌って、すっごい切ないんだよね。
胸がきゅって締め付けられる。





‥千賀、今頃なにしてんだろ。


まだ寝てるかな。
それとももぅ起きてご飯とか食べてんのかな。
最近は、朝弟が淹れてくれるコーヒーを飲むのが楽しみって言ってたな。

千賀って弟と仲いいもんね。







‥‥て、んなことあるわけない。

だって今日オフだよ?




「にかと一緒にいるに決まってんじゃん。」




うわ、



声に出したら意外にもおっきいダメージ受けた。






離れ離れになってからわかった俺の中の千賀の存在。
俺にもたれかかって名前呼んで甘えてきて、いつもそばで笑ってる。いい意味で空気みたいな存在だった。
いて当たり前、みたいな。



でも、今思えばそう思ってたことが間違いだったんだな、きっと。



あの夜も、いつもみたいに電話がかかってきて、いつもみたいに他愛無いことしゃべるつもりだったのに、その夜の電話はいつもとは違くて。

どうしたのか尋ねたら、



『たまのそばには、俺もう居れない‥。』



鼻をすすりながら小さい声がぼそぼそ聞こえたと思ったら、今までありがとね。って。
言葉の意味がわかった時にはもう電話が切れた音しか聞こえてなかった。



一方的に別れを告げられて何ヵ月経っても、千賀が別れを切り出した意味がわからなかった。



でも、あの夜の電話から、電話も繋がんないしメールも返ってこない。
そこで本気で別れるつもりなんだってわかってからは、いつまでもまとわりついてたら千賀が迷惑するんじゃないかって思って、連絡を取るのを止めた。


本当は別れなんて、認めたくなかったけど。


でも、いつもくっついてきてた千賀に迷惑がられるのが怖くて吹っ切った、つもりだった。




だけどふとした瞬間に考えるのはいつも千賀のこと。


こんなに好きなのに、なんでもっと大切にしなかったんだろ。
なんでそばにいる時に、こんなに好きってことに気付けなかったんだろ‥‥。





"隣にないsmile"
"脱け殻の僕がいる"
"窓の外は今でも 雨 雨 雨…"





一つ一つのフレーズがいちいち心に刺さる。




「‥‥ふ、すごいな。」



窓の外を見てみれば、降り止まない雨。



歌詞とリンクしすぎてて、感動すらしちゃう。




「君の笑顔 今も 消えないから‥‥」




不意に口ずさんだワンフレーズ。

その瞬間に頭の中を駆け巡る千賀の笑顔。


そりゃもぅ、色んな笑顔を見せてくれた。


おねだりするみたいな甘えた笑顔だったり、歯を見せていたずらっぽく笑う顔だったり。
おもしろい時にはおっきく口を開けて笑うし、寝起きの俺にはふんわり優しい笑顔を向けてくれた。



思い出せば思い出すほど苦しくなる。



こんなに大事なものを失っちゃったんだ、俺。
今頃気付いたってもう遅い、ってね。







‥‥はぁ‥。


いつまで経っても俺の中から千賀が消えない。
未練がましい男なんて、かっこわるいのに。


やっぱりもぅ、忘れたほうがいいんだよね。





鼻の奥がツンて痛い。

目頭が熱い。




どうしらたらいいかわかんなくて、その痛みを紛らわすように、窓の外の降り続ける雨を見つめた。



不意に痛みが無くなったと思ったら、右のほっぺが一筋濡れた。









end
あとがき→
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ