僕だけの暗号U

□姫のお目覚め
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時計を見るとまだ明け方。



オフなのにこんな早く目が覚めちゃった。
いつもの俺ならもったいねぇーって思う。

だけど今日はいつもとは違う。



隣にはくーくー寝息をたてて眠っている恋人がいる。
たまとはコンサートの時とかに泊まる部屋もあんまり一緒になったりしないから、こうやって同じ場所で眠るのはお泊りしたときぐらい。
そのお泊りも、最近はお互い忙しくて思うようにできなかったから何ヵ月ぶり。


久しぶりにこんな近くでたまの寝顔拝めて、早起きしたのむしろラッキー。



それにしても気持ち良さそうに寝てんなぁ。

布団に潜り込んで体を縮め込ませてるたまの姿はまるで小動物。


寝顔を見てると自然と顔が綻ぶ。



「‥かわい。」


ほっぺを撫でながら思わずそう漏らすと、たまが小さく唸って、そしたら俺の方に寄り添ってきた。



この甘えん坊め、可愛すぎんだよ。




さてと、水でも飲もうかな。

たまの頭を軽く撫でてから、ベッドを出てキッチンにむかう。




さんむっ。


リビングに出ると、もう冬本番って感じ。
足の先やら指の先やらが一気に冷たくなる。



冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを取るついでに、中の材料をチェック。



朝ご飯どしよっかなー。
最近たまよく食べるからなぁー。
がっつりしたのがいいかな。
んー、でも朝っぱらからそんなに食べらんないか。
いやでも、あの子の食欲って見くびれない。
てかそもそも、起きてくんのか?
早起きできないタイプだし、それに今日はオフだから絶対起きてこない気がする。



「どーすっかな。」




開けてる冷蔵庫の扉に手をついて一言つぶやいたその瞬間、後ろから小さい衝撃とふわっとほのかにする優しい匂い。

お腹には長い腕が回ってて、ぎゅっ、と抱き締められてる。



少し顔を後ろに向けると、背中におでこをくっつけて俯くたまが見えた。




「たま?起きたの?」


「‥‥」



俺の質問に答えが返ってこない。



「たま?」


だからもう一回名前を呼んで振り返ろうとしたら、お腹に回ってた腕にさらに力がこもった。




「勝手にいなくなんないで。」




小さく聞こえた声。
たまからのその言葉に胸がどき、っていうか、きゅんっ、て。

だって今の言葉、俺がそばにいないのが嫌って言ってるみたいだったんだもん。


だから

「寂しかった?」


って聞いてみたらたまは、


「一人であんなでっかいベッドで寝てんのつまんないの。しかも一人だと寒いし。」


って返してきた。



ほんとに素直じゃない。

ほんとに素直じゃないけど、でもその言葉には、たまの素直な気持ちがこもってるんだと思う。


ぱたん、と冷蔵庫を閉めてたまと向かい合う。



「わかったわかった。ようは、たまのそばを離れるなってことでしょ?」


急に振り返ったのがびっくりしたのか、目を丸くして見つめるたま。
俺がそう言った後、ほんのりほっぺを赤く染めてうなずいた。


その姿が愛しくて思わず抱き込むと、背中に手が回ってきて、ぎゅ、とシャツを握られた。



「ベッド戻る?」


「ん。」



ゆっくりとたまから離れて寝室に向かう。
と、スウェットの左ぽっけがもぞもぞした。

見てみるとたまの右手がすっぽり納まってて。
そのまま視線を顔の方にずらすと「なーに?」みたいな顔で首を傾げられた。


この子は狙ってやってるの?
なんなの?
俺の心臓がそろそろ限界なんだけど。



寝室に戻るとカーテンの隙間から光が差し込んでるのが見えて、朝になってるのに気付いた。


「外明るいね。」

「ねー。天気よさそうだし、買い物でも行ってみる?」


ベッドに潜り込みながら聞くと、まだ立ったままだったたまが眉間にしわを寄せた。



え、なんで眉間にしわ?



そしたら勢い良く抱きついてきて、押し倒された状態の俺の上に跨るたま。


わけがわかんない。
謎過ぎます、裕太くん。



そのままじっと見つめられて、俺どーしよ。



「せっかく2人ともオフなのに外なんか行きたくない。それに、買い物なんていつでもできるし。」


「‥あぁ、そっか。」


「今日はがやと2人だけで過ごしたいの。誰にも邪魔されたくないの。」



「あぁ、そっ‥‥‥え?」




逸らしていた視線をまっすぐ前に戻すと、一瞬目が合って逸らされた。



もぅ、愛おしさしか湧き出てこない。
可愛すぎて俺おかしくなりそう。



「‥じゃぁ、そうしよっか。」


「ん。」



ぼふん、と向こう側をむいて横になるたま。


こいつ照れてんな。
まったく、とことん可愛いんだから。



そんな可愛い君に。


「‥っうぉ、ちょ、なに。」

「一人じゃ寒いんでしょ?くっついてればあったかいじゃん。」


後ろから抱き寄せて、お腹に手を回す。
そしたら少したまの体が縮こまった。



「や、俺が言ったのはそーゆーことじゃなくて、」


「ふーん。でもあったかくなってるみたいじゃん。たまの体、ぽかぽかしてるよ?」



恥ずかしくなって体温があがってることぐらいわかってる。
だって、たまのドキドキって音がもろに伝わってきてるもん。

でも、ちょっと知らんぷり。

さてさて、素直じゃない裕太くんはどんな反応を見せてくれるかな。



「別にあったかくないもん。がやが熱いだけなんじゃないの?」


なるほど、俺のせいにするわけね。
まったく、自分では気付いてないからそんなこと言えるんだよ。



「自分の耳まっ赤なの、知ってた?」


こぼれてくる朝日のおかげで見えたたまの耳は、ほんとにまっ赤。

茶化すように囁くとびくっ、と体が揺れた。



「‥そんなの、知らないもんっ。」


「なに焦ってんの?」


「っ、‥‥焦ってないっ。もぅ、ほら寝るよっ。」


「はいはい、おやすみ。」



照れてるたまに、おやすみの挨拶をした後、ちゅ、とほっぺに軽くキスをして、俺もたまを抱き締めたまま目を閉じた。




先に俺が二度寝から目覚めたら、今度はたまが起きるまで待ってるよ。


離れないで待ってるから。









end
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