僕だけの暗号U
□夏が去って秋が来た。
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「ふふ、来てもーた。」
「っおぅ‥、なんや、びっくりしたぁ‥」
「当たり前やん!びっくりさせたろ思てんもん。」
9月22日、今までのむし暑さが嘘のように涼しくて。
なんやったら少し寒いぐらい。
季節の変化が嬉しくて、窓を全開にしてゲームを楽しんでたところに突然鳴ったインターホン。
誰やねん、昼間っから。
ゲーム画面を一時停止にしてのそのそと玄関を開けると、そこにいたのはたいして背の高さが変わらない、同じグループの彼。
そしてそこで冒頭のやり取りがあったわけで。
「おっじゃましまぁーす♪」
あぁー、やっぱ渋やんちの匂い好きやわぁー。
そんなことを言いながらリビングに向かうチンパンジーくん。
今日も派手なかっこしとんな。
しかもかばんでか。
「あ、渋やんゲームしてたん?」
ひょい、とゲームを拾い上げて画面をまじまじと見つめてる。
「ん?あぁうん、しとった。」
「これ画面止まってるよ?」
「さっき止めた。」
そやったそやった。
一時停止したままやった。
やすからゲームをもらってセーブする。
「ようやるなぁー。」
「おもしろいんやもん。」
「ふぅーん。」
画面を見たまま答えると、ぼすん、とソファに沈み込んでやすがそう返した。
「なぁ渋やん。」
よし、セーブ完了。
「なに?」
今度は顔を向けて返す。
「今日誕生日やの、知ってる?」
あ、今の首傾げた感じ、なんや可愛い。
「俺のやろ?おん、知ってるよ?」
そりゃ自分の誕生日やもん。
覚えてるわ。
「なんやいつもと変わらんやん。ごろごろしてゲームして。」
足ぷらぷらさせて、なんて可愛いの。
「えーの。いつもと変わらんのが幸せやの。」
「そうやけどさぁ。」
「しかもやす居るし。」
ゲームをしまいながらそう言うたらやすからの返事はなく、見ると尋常やないくらい顔真っ赤にさせてて。
「‥‥なに言うてん‥。」
かわい。照れてんやな。
「俺はそれだけでじゅーぶんてことや。」
ちょっと自分でも恥ずかしなってきたから、ごろごろ寝っ転がってごまかしてみた。
あぁ、窓から入る風が気持ちい。
秋ってええね。
俺の誕生日もあるし。
「なぁ渋やん、‥‥これ‥。」
「んー?」
いつのまに、寝っ転がってる俺の隣に正座して、小さな紙の袋を差し出すやす。
「プレゼント‥やねんけど‥。」
「プレゼント?」
まぁ。なんて嬉しい。
起き上がってそれを受け取る。
「見てええ?」
「うん、見て?」
その小さな紙の袋から出てきたのは、シンプル イズ ベストなブレスレット。
「あ、いい。これ好き。」
早速腕にはめるとやすの表情が少し緩んだ。
「よかったぁ。‥‥ねぇ見て?」
「ん?」
やすの視線はやす自身の足。
促されるようにそこに目をやると、
「あ、一緒や。」
「うん。僕それのアンクレットやねん。」
「これとそれ、ペアなん?」
「そう、ペア。ブレスのペアもあったんやけど、こっちの方が密かにおそろやから、なんかええかな思て‥」
「嬉しいわぁ、ペアなんて。ありがとうな。」
「よかったぁ、ほんまに。勝手にペアにしてもうたけど。」
「えーよ全然。嬉しいもん。」
ペアなんて、特別な関係やないと持てんもんね。
これは素直に嬉しいわ。
「渋やん。」
「ん?、っぉわ‥ちょ、やす?」
突然近くで感じるやすの匂いとぬくもり。
「お誕生日、おめでとう。」
もぅ、嬉しいやんそんなん。
やっぱりやすが居ることが一番幸せやな。
やすの背中に腕を回したらブレスレットが目に入った。
ちら、と見たらやすの足首のアンクレットも見えて。
密かな俺らの繋がってる証拠。
「ありがとう、やす。大事にするな。」
ブレスレットも、あんたもね。
end