僕だけの暗号U

□20110917.最後は
1ページ/2ページ








‥‥はぁ。



わかっては‥いた、つもり。
だってしょうがないことだもん。
どうこう言ったってどうにもならないこと。


だから俺は我慢しなきゃいけない。
わがままなんか言っちゃだめだ。



だけど、さ‥。

やっぱりメールぐらいは欲しい、じゃん?


誕生日だもん。
恋人からの祝福メールほどドキドキするものはない。



でも、今年は我慢。




すると激しく唸り始める携帯。



「っ!」



激しく高鳴る俺の鼓動と、大きく膨らむ俺の期待。




開いてみると、地元の友達からの祝福のメール。






すこし、がっかり。

いや嬉しい、嬉しいんだけどさ。






‥‥‥はぁ。



また藤ヶ谷じゃない。




何回目かわかんないため息。






いや、でも、しょうがないことだろ?
藤ヶ谷は仕事してんだから。
メールすら送ってこれないぐらい忙しいんだ。



‥それに藤ヶ谷から言われたじゃないか。




『ごめん。今年の誕生日、そばで祝ってあげられない‥。』





電話で言われた藤ヶ谷の言葉が蘇る。
ひどく切ない声色で、躊躇うような言い方だった。



そんな言われ方されたら明るく言い返すしかなくて、



『気にすんなって!だからちゃんと仕事に集中しろよ?』





その後に藤ヶ谷が鼻を啜ったのを俺は聞き逃さなかった。


俺のことを一番に考えてくれる藤ヶ谷だから、誕生日にそばにいられないことを申し訳なく思うんだろうって、そう思った。


そんな藤ヶ谷の思いに胸が締め付けられた。







別に一人で豪勢な料理食べる気分でもないし、ケーキだって好きじゃないからいらないし。



いつもとなんら変わりない一日。






“寂しい”なんて、思いたくない。

なんかわかんないけど、寂しいって思ったら、藤ヶ谷のこと恋しくなっちゃいそうなんだもん。
今日一日我慢したのが、無駄になっちゃいそうだもん。





だから、誕生日メールを読み返して少しでも26歳になった実感を味わおう。




カチカチとボタンを押して片っ端から読んでいく。



シンプルに祝福の言葉を並べてくれる人もいれば、文字の色を変えたり画像を貼りつけたり、凝ったメールをくれる人もいる。


みんなその人らしさが出ていて、自然と頬が緩む。



いい人たちに恵まれてるな‥俺。





だんだんあったかな気持ちになってきて、残りのメールを読み進める。






メンバーからのメール。

どれもすごく感動した。
長くはない文章だったけど、気持ちが込もってるのが伝わってくる。




でも、1通、足りない。



毎年6通届いていたメンバーからのメールは、今年は5通。





胸が苦しい。
誕生日に藤ヶ谷からの祝福がないなん、て‥



「寂しい、よ‥。」






携帯を握り締めて膝を抱え込む。


口に出してしまったら寂しい気持ちが膨らんでしまった。




こんなに寂しい誕生日は初めてだ。






その時また、握ってた携帯が振動した。


開いてカチカチとボタンを押してメール画面になったとき。








「っ!!?」





後ろから小さな衝動と共に、あったかなぬくもりが俺を包み込んだ。


少し切れ気味の吐息。
お腹に回ってる優しい腕。



全部に覚えがあった。




でも、そんなはずない。


でも、これは間違いない。





あれ?混乱して思考が着いていかない。



するとお腹に回ってた右腕が抜けて、固まっている俺の、携帯を握ったままの手に重ねて顔の前に誘導された。






必然的に目に入ったメールの文。






“一番最後は俺。”








「‥‥藤ヶ谷っ!」



思わず、ばっと振り返ると、そのまま重ねられる唇。


腰を引き寄せられて、後ろ髪にはくしゃっと指が絡められて。




とろけるような甘いキス。




長く甘く重ねられた唇が離れると、やっと見えた藤ヶ谷の顔。




ふんわり微笑んだ藤ヶ谷の口から出たのはあの言葉。









「誕生日おめでとう。宏光。」









その瞬間、時計の針が12のとこで重なった。



9月17日の一番最後は、藤ヶ谷のその一言だった。











end
あとがき→
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ