壱万打リクエスト

□愛してるんだ、本当に
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その笑顔に、

酷く胸が痛んだ。



【愛してるんだ、本当に】



休日の夕方、冷蔵庫が空な事に気づいた銀八は買い物を終わらせ、中心街を歩いているところだった。
休みなだけあって周りは人、人、人。
押しつぶされそうなほどの人並みに銀八は小さく項垂れ、急いで人並みから出ようと足を動かした。
だが、なかなか出ることが出来ず、仕方なしにお洒落な雰囲気を醸し出している店の軒先に身体を滑り込ませて一息つく。
そこは木が主体で作られたメトロな雑貨店で綺麗に磨かれたショーウィンドウ越しに店内が伺えた。
落ち着いた雰囲気のその店に銀八は興味を惹かれた。



「(高杉が好きそうな店だな)」



意外に古めかしい物が好きな小さな恋人のことを思い浮かべ、銀八はショーウィンドウから店内を見る。
木製の和風家具や手作り感溢れる箸に何とも味のあるお茶碗、他にもちょっとした置物やジッポライターなど、飽きさせないような商品が沢山置いてあった。
銀八はほぅ、と息を吐き中に入ろうと木製の扉の取っ手を掴もうとして動きを止め、もう一度ショーウィンドウから店内を覗いた。



「(あ、れは・・・)」



青年が二人、仲睦ましく並んで商品を手に雑談しながら見ている。
どちらも黒髪で、しっとりとしたそれに触れてみたいとさえ思える美しさだったのだが、銀八にはそれ所ではなかった。
あの後姿の片割れは何度見ても変わることなく、一人の人物を連想させる。
小柄な後姿に撫で混ぜたくなる黒髪、コラーゲンたっぷりの頬に手を絡ませたくなる綺麗な指。
店の外からは窺い知れない声はどう考えても銀八の恋人と同じ。



「(高杉)」



なんで、とショーウィンドウに手を付く。
自分の恋人である高杉が男――土方と共に楽しそうに談笑しながら商品を選んでいる。
昔から彼らが仲良しなのは知っていた。
一緒に歩いていれば兄弟と見間違われるほど良く似ている二人は、二人だけで出かけることがあることも高杉に何度か聞いたことがある。
だから二人が一緒に出かけていることに何ら疑問はないのだが、銀八にとって一つだけどうしても信じられないことがあった。



「(今日・・・ずっと家に居るって、言ってたのに・・・)」



昨日の夜に電話をした際、高杉は明日はずっと家に居る、と言っていた。
だから銀八は家に遊びに来る?と誘うと部屋の掃除をするから夜に行く、という返事を貰っていた。

銀八はまた、なんで、と呟いた。
この嫉妬まがいな感情を、銀八は押し止めると急いでその場を後にした。


胸を押さえ、渦巻く黒い感情を押し殺して。





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