壱万打リクエスト

□君だけに
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可愛いね

素敵だね

好きだよ

大好き

そんな言葉、何千、何万って言ってきた。
でも、あの言葉だけは。



【君だけに】



開店前のホストクラブに妙な組み合わせの男が二人、ソファに座っていた。
一人はここのホストクラブで働いているであろう派手な金髪の天然パーマに真っ赤なワイシャツを身に纏い、高級品であろう装飾品たちを身につけている白スーツの男ともう一人は黒髪のやけに上品な雰囲気を身に纏った学生服の少年だった。
二人は仲睦ましく談笑しながらイチャついている。
それを仲間のホスト達がため息をつきながら見ていた。



「何なんだ、アレは・・・」
「銀時が開店前に客ぅ連れて来るのも珍しいのぉ」
「客じゃないだろ、アレはどう見ても」



歌舞伎町NO.1と謳われる坂田金時が連れてきた少年を見つめ、同僚の桂小太郎と坂本辰馬はそれぞれ違う笑みを浮かべた。
桂は困ったような苦笑い。坂本は微笑ましいものを見るような微笑だった。
だがそんな視線を注がれているとは知らない二人は楽しそうに話していた。



「あ、晋ちゃん。この間言ってたラーメン屋、俺行ってみたよ」
「マジで?どうだった!?」
「すっげぇ美味しかった。今度一緒に行こうねー」
「金時の奢り?」
「もち!」
「やったー!金ちゃん大好きー!」



ぎゅう、と抱きついた少年――高杉を抱き返して「俺もー」と言った金時は顔の横にある彼の耳をしばらく見て、ぺろっと舐めた。



「ひあっ!?」
「あ、ごめん晋ちゃん」
「ななな、な、なに・・・!?」
「んー、晋ちゃんの耳が可愛くて美味しそうだったから、つい」



ゴシゴシと耳を擦る高杉の頭を撫でながら金時は笑う。
高杉も釣られるように笑うと同じように金時の耳を舐めた。
きょとん、と舐められた耳を押さえて金時は高杉を見つめた。



「晋ちゃん?」
「仕返し♪」



悪戯が成功した子供のように笑う高杉は金時が用意してくれたオレンジジュースを飲み始めた。
しばらく呆けていた金時だったが高杉の「このオレンジジュース美味しい!」という声に自我を取り戻し、会話を再開した。



「何なんだ、アレは・・・」
「あっはっはっ!さっきと同じセリフぜよ、ヅラぁ」
「ヅラじゃない桂だ。言いたくもなるだろう・・・あんなものを見せられては・・・」
「ありゃ、銀時の恋人かのぉ?学生とは中々にデンジャラスな男ぜよ」
「馬鹿者。学生とかの前にアレは男だ!男を誑かすとは・・・金時は血迷ったか?」



二人の行動を一部始終見ていた桂と坂本は同僚の恋愛に些か不安を感じ始めた。
桂が何かを決意したように一歩前に出る。



「ヅラ?どうしたんじゃ?」
「確かめるぞ」
「何をじゃ」
「奴らの関係をだ!」



そういうと桂はズカズカと金時たちが座るVIP席に近づいた。
二人は桂が近づいてきているということにも気付かず、未だイチャイチャとイチャつき合っている。
ガシッと桂が金時の天然ものの金髪を掴む。
突然のことに金時は声を上げた。



「ギャッ!なっなんだ!?」
「金時ッ!学生をこんなところに連れてくるとは何事だ!!教育に悪いだろう!」
「ちょっ、ヅラ!?いだだだだッ!俺の金髪ッ抜ける!!痛いッ!」
「あははは!金時すげぇ顔!お兄さんもっとやっちゃってー!」
「晋ちゃん酷いッ!金さんのこと助けてくれてもいいんじゃないの・・・ってヅーラーッ!マジで痛いって!テメェは手加減を知らない餓鬼か!!」
「やかましいッ!!こんな子供に無体を働くとは、貴様は鬼かッ!!」
「はぁ!?何のこと言ってんだよ!?」
「どこまでやった!?Aか?Bか?まさか貴様Zまでいったのかぁぁぁぁ!!!」
「いちいち言葉が古いんだよテメェは!!」



開店前の店で騒ぐ金時と桂を無視して坂本がゲラゲラと笑っている高杉に声をかける。
高杉は坂本のモジャ毛を見つめ、目を輝かせた。



「それ地毛?ここって天パ倶楽部?」
「違う違う。ヅラを見てみぃ。直毛じゃあ」
「あのお兄さん?あ、ホントだ」
「ところで、えーと・・・」
「高杉晋助」
「おぉ、晋助君じゃな!晋助君は銀時とどんな関係?」



見事に人の名前を間違えている坂本だが、高杉は気にせず『あぁ、金時のことかな?』と予想を立て、にっこりと笑った。



「友達だよ。俺が暴漢に襲われそうになった時助けてくれた、正義のヒーロー」
「銀時が?」
「うん」


その時のことを思い出しているのか、嬉しそうな瞳に若干の恐怖を含ませ、高杉は微笑んだ。

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