小説
□バカは風邪を…
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「よし、今日も張り切っていくよ!ティナ!」
今日もピカチュウの無駄に元気な声で一日が始まった。
いつもならその後にティナも答える筈…なのだが、何故か返事がない。
不思議に思ったピカチュウがティナの方を見ると、ティナはまだ自分の寝床で眠っていた。
「ティナー?」
ピカチュウがティナの顔を覗き込むと、
「ケホッ…」
乾いた咳が一つ聞こえた。
「ティナ…?」
確認するように名前を呼ぶと、もう一つ咳が出た。
ピカチュウは急いでティナの額に手を当て、熱を測った。
「熱い…。どうしよう、このままだと…っ」
「どうしました?」
後ろから、よく知っている声が聞こえ、ピカチュウが振り返るとそこにはヨノワールがいた。
後ろにはジュプトルもいる。
「ヨノワール!大変だよティナが熱をだして…!」
「な…!?」
「ちょっと見せて下さい…!」
ヨノワールはティナに近付くと両手をかざした。
「これは…っ!」
「どうしたの…?そんなに悪いの…?」
「オイ!どうなんだヨノワール!」
「これは……
ただの風邪ですね。」
『へ?』(ケホッ)
「しかし、油断は出来ません。
すぐに皆さんを集めて来て下さい。」
ピカチュウとジュプトルは勢いよくサメハダ岩を出ると、そのままギルドへ走っていき、残ったヨノワールはティナに言い聞かせるように話し掛けた。
「ティナさん…あれ程無理はするなと言っていたのに…」
「ケホッ…ごめーん…」
「…起きてたんですか。今皆さんが来ますから、おとなしく寝ていて下さい。」
「大丈夫だよー…そんなに酷くないし…。コホッ…」
「馬鹿言わないで下さい。
まったく、どれだけ心配させれば気が済むんですか貴女は…。」
「うー…」
ティナが頭までシーツを被って反論出来ないでいると、ピカチュウ達が帰ってきた。
「ヨノワールー!皆連れて来たよ!」
『大丈夫か!!?』
「うわぁー……ピカチュウ、ほんとに皆連れて来ちゃってるよ…ケホッ」
そこからの全員の動きは早かった。
まず、マナフィとフィオネが桶に水を溜め、その中にレジアイスとフリーザーが氷の塊をいれた。その後ジラーチが布をその氷水に浸し、ティナの額に乗せる。
セレビィは癒しの鈴で少しでも楽になるようにと、ディアルガ&パルキアは栄養を取れるようにと様々な木の実を持って来た。
「コホッ…皆ごめんねー…取り敢えず…移るかもしれないから、帰ったほうが…」
「帰らぬぞ」
「ティナがよくなるまで、絶対帰らないわ」
「だから早く元気になって下さいな」
「…ていうか、また皆ちっちゃくなってるよね…」
またあのアルセウスか…と創造主に失礼な事を思いつつ、ティナは眠くなってきた。
「眠いのなら寝てしまった方がいいですよ。このまま起きていても、暇でしょうし…」
「そだね…後の事は頼んだよ……」
ティナはやっとそう言うと深い眠りの中に落ちていった。
そして、次の朝。
「ふぁあ…よく寝たー。熱も下がったみたいだし、皆にお礼…」
「…何をしているんでいるんですか。下がったとは言え、まだ無理をしては行けません。
いいから、眠っていなさい。」
怒ったような口調でそうまくし立てると、ヨノワールはまた背を向けた。どうやら、何か作っていた最中だったらしい。
(何作ってんだろ……あれ?)
ティナが自分の上に重さを感じてそちらの方に目を向けると、ピカチュウが眠っていた。
「うー…ティナー…」
恐らく看病中に疲れて眠ってしまったのだろう。ティナは嬉しいような照れくさいような気持ちで、ピカチュウの頭を撫でた。
「ありがとう…」
「…ティナ、もう良いのか?」
「うん」
「…やったー!ティナの風邪直ったー!」
フィオネの声に次々と起き出すポケモン達。
「取り敢えず、喉が乾いたでしょう?木の実を絞りましたから、皆さんで飲んで下さい。」
「ありがと、ヨノワール」
「気が利くな…」
「貴方は何もしていないではありませんか」
「まあまあ、クレセリア。その辺にしといてやれ」
「ティナ、何ジュースが良いかしら?」
「えーと、…じゃあオレンで」
「…はい、ティナ」
「ありがと、ユクシー。」
ティナはジュースを受け取ると一口含んだ。
甘い何とも言えない味が口いっぱいに広がり、乾いた喉へ滑り落ちて潤していく。
「…おいしい、…そういえば、皆風邪ひいてないの?」
「ヒイテナイヨ」
「そっか…良かった。看病してくれたのに、皆に移っちゃうんじゃないかって心配だったんだ。」
「気にしないで、ティナ」
「うん、ぼくたちは滅多な事じゃなきゃ風邪なんかひかないんだから」
その言葉に安心したのか、ティナはふわりと微笑んで、
「ありがとう…皆」
と、感謝の気持ちを伝えた。
全員照れ笑いを浮かべてティナに一言。
『もう無理はするなよ(しないで)』
今度はティナが照れ笑いする番だった。
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