ゆめ2

□彼と過ごす一日
1ページ/1ページ




「おはよう。久しぶりだね。」


「会議が中止になっただけだ。ふぅん。」


海馬くんが学校に来るというのは珍しい。何日振りの登校だろう。しかも玄関で会うなんて滅多にない。クラスメイトだから確かに靴箱は近い。でも海馬くんが学校に来ること自体珍しいし、朝から来るというのはもっと珍しい。
教室まで何故か海馬くんと一緒に行くことになった。海馬くんが居なかった数日の話をして聞かせると海馬くんは「下らない。」と言いながらも私の話を聞いてくれた。
海馬くんと話してると少し緊張してしまうのが自分でも分かった。







「あ。教科書忘れちゃった。」



教室に着いて直ぐに気付いた。カバンに入れたはずの教科書を取り出そうとして中を見る。するとそこには別の教科書が入っていた。しかも困ったことに一時間目は教室を移動しなければならない。クラスメイト達は次々と教室を出ていく。他のクラスの子に借りるとしても間に合うかどうか…。そう思っている時だった。



「おい。」


「え?」



私に向かって一冊の教科書を投げ渡される。海馬くんと私の席は少し遠い。他のクラスメイトは既に移動してしまっていて此処にはもう私達しか居なかった。



「これ、海馬くんの…。」


「教科書などいらん。」


「でも…。」


「この俺が高校の、ましてや教科書の問題が解けないとでも言うのか?」


「そうじゃなくて…あ、ありがとう。」



それだけ言って私は教室に向かった。







その後の海馬くんはいつもと変わりなかった。遊戯くんに勝負を挑んだり城之内くんを挑発したり。海馬くんの教科書はまだ私の手元にある。もう放課後。私は海馬くんとは話しはするものの遊戯くん達ほど仲が良いわけではない。返すタイミングを掴めずにいた。海馬くんは私が困ってたから助けてくれたんだよね?あんな言い方だったけど。
もう一度きちんとお礼を言って返したい。そう思った私は車に乗り込もうとする海馬くんを引き留めた。



「待って、海馬くん!」


「乗れ。」


「乗れって、えぇっ!?」



私と海馬くんを乗せた車は何事もなかったように走り出した。



「用件はなんだ。」


「これ、ありがとう。お礼が言いたくて…。」



借りた教科書と小さなチョコレートを差し出す。甘いものは好きか分からないけど頭を使う海馬くんにはいいかなって。



「ふぅん、安物だな。」


「ご、ごめんね。これくらいしか持ってなくて。でも甘いもの食べたら仕事がはかどるんじゃないかなって…。んっ…!か、海馬くん何するの!?」



だんだん顔が近づいてきているのに気付かず私はあっさり海馬くんにキスされた。唇が触れた瞬間、ほんのりチョコレートの香りがした。私が慌てて話してる間に何だかんだ言って食べてくれたんだ。



「あの…海馬くん…。」


「なんだ。」



顔をあげると少し恥ずかしそうな横顔があった。今日一日で気付いたの。私、海馬くんが好きなんだね。海馬くんと一緒に居るときの緊張感とかいつ教科書を返そうか考えてた時のドキドキとか。思い返せばいつも海馬くんのことしか考えてなかった。



「海馬くんのこと…好きかも。」


「なっ!?」



いきなりだったからか海馬くんは予想以上に驚いていた。でも直ぐにいつもの海馬くんに戻って「付き合ってやらんこともない。」と窓の外を見ながら答えてくれた。きっと照れ隠しなんだろうなって思いながら「よろしくお願いします。」と私は返事をした。







彼と過ごす一日




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ