ゆめ3

□高校生の日常
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「か、海馬くん!一緒に帰りませんか?」



言ってしまってから後悔した。いつも迎えがくる海馬のことだ。今日だって校門で待っているに違いない。誘うのに緊張してそれがすっかり頭から抜け落ちていた。顔を上げられない。



「帰るぞ。」


「え?」


「誘ったのは貴様だろう?」


教室には似合わないパソコンや書類は既に片付けられ、片手にはそれらを詰めたと思われるジュラルミンケースが握られていた。



「お迎えはいいの?」


「連絡を入れた。他に質問はあるか。」


「無い…です。」



まるで今さっき帰らせたという感じの口振りだった。まさか私が下を向いている間に連絡したとか?確かに学校内で何かあったときにすぐ連絡出来なければ警備の意味は薄くなる。もしかしたらそういう時のことも考えて簡単に連絡出来る手段があるのかもしれない。
一緒に帰ると答えた海馬はもう教室を出ようとしていた。



「ま、待って!」


「早くしろ。」



廊下をふたりで並んで歩くととても目立つ。他の教室を通る度に周りがざわつくのが分かる。
やはり、海馬を知るものは多い。もしかしたらファンクラブがあるのかもしれないと思うほど視線が痛かった。



「か、海馬くん。あの…。」


「いちいち気にするな。」


「うん。」



あまり会話をしないまま玄関についた。私の下駄箱は最上段。自分より遥かに高い位置にある。背の低い者に優しくない。毎回背伸びをしてやっと靴を出し入れしていた。



「ふっ、貴様、届いてないぞ。」


「大丈夫だよ、ジャンプすれば。ほら!」



ぴょんぴょん跳んでいる私を尻目に海馬は自分の上履きを最上段の下駄箱にしまい込んだ。



「え?そこ私の…。」


「貴様は下を使え。」



指を差す先は一番下の下駄箱だった。上よりは余程取りやすい位置だ。



「交換してくれるの?」


「こちらもこの方が都合が良いからな。」



そう言って靴を履き、再びさっさと歩き出した。私もそれを追い掛ける。



「海馬くん、ありがとう。」


「ふん、礼などいらんわ。」






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