ゆめ2

□素直になれない
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図書室に時々現れるクラスメイト。学校に来ること自体珍しい。だけどそれには理由がある。彼はあの有名な海馬コーポレーションの社長。ここの生徒なら誰でも知っている事実。そんな大企業を動かしている彼はそうそう学校には現れない。もしかしたら来たくても仕事が忙しくて来ることが出来ないのかもしれない。出席日数はきっとギリギリ。

海馬くんは学校に来たとき大抵この図書室に寄る。今日もそう。窓際の大きな机に座り、ノートパソコンを開きつつ溜まった課題に目を通しているようだった。今、この図書室には図書委員の私と海馬くん以外誰も居ない。元々図書室を利用するものは少なく、もう少しで閉館となるこの時間帯は普通なら図書委員以外居ないのだ。


もう閉館時間だというのに海馬くんは気付いていなかった。本来ならば帰る準備をするように促し、その間図書委員は後片付けをするのだが今日はそうもいかない。相手は海馬くんで他には誰も居ない。気まずい。また冷たくあしらわれるのかと思うと声をかけられない。何回か話しかけたことはある。最初は優しかったのだ。しかし急に冷たくされ、どうしていいか分からなくなってしまっていた。私は何か嫌われることをしてしまったのかもしれない。それでも声をかけなければいけないと思い席を立とうとした瞬間、後ろから声がした。



「おい、貴様。閉館時間はとっくに過ぎているようだが?」


「す、すみません。」



急いで振り返り謝る。いつの間にカウンターの中に入ってきたんだろう、気付かなかった。考え事をしている間に閉館時間は過ぎていたのだ。目の前には呆れたような海馬くん。ただでさえ嫌われているのに何やってるんだろう、私。



「あの、まだ貸出は大丈夫ですので…。」


「ふぅん。貴様、俺を怖がっているな。」


「えっ?」



トンッと肩を押されて私はバランスを崩す。何が起こっているのか理解出来なかった。海馬…くん?



「貴様はいつもそうだ。何故だ。」


「海馬くん、冷たいから…私、嫌われてるんだと思って…。」



そのままカウンターに押し付けられて息を呑む。顔が近い。
私は避けていた。海馬くんの目に触れないように。苦しい思いをしないように。嫌われているのなら見つめているだけでいい、と。



「んっ…。」



突然の出来事に思わず目を瞑る。今までの態度とはまるで違う優しい口づけ。どう…して?



「海馬くん、何でこんなこと…。」


「好きだからだ。他に理由などあるまい。」



好き…?



「貴様は無防備過ぎる。誰に対しても警戒心無しに寄っていく。恐怖心を持っていた俺にすら後ろを許すとはな。」



海馬くんが自嘲するような表情を浮かべ話す様は痛々しくて。今までの冷たい態度の理由は…。



「わざわざ俺が此処に来る意味を考えろ。」



ギュッと抱き締められて心が跳ねる。ずっと私を心配してくれていたの?海馬くんは課題を片付けるために来ているのだとばかり思っていた。でもそれが答えだったら意味を考えろだなんて彼は言わない。海馬くんが来るのは決まって私がひとりで当番の日。偶然だと思っていた。だけどそれは違う。



「そんな顔しないで。海馬くんのこと…好きなの。」


勇気を振り絞った告白。海馬くんはそれに応えるように優しく優しく抱き締めてくれた。







素直になれない




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