三郎が前触れもなく風邪をひいた。
「バカじゃないの?」
「雷蔵酷い!」
布団を口元で隠しながらゲホゲホと咳をする三郎はいかにも病人だった。
「だって三郎って体力無いし体弱いのに何で昨日大雨の中走り回ったの?」
「…走りたい気分だったから」
「………」
なんという理由だと思いながら雷蔵は三郎の額から熱のせいで温かくなってしまっている手拭いをとり、冷たい水が入っている桶に浸し力強く絞ると再び三郎の額の上に置く。置かれた手拭いの冷たさに三郎は少し驚く。
「とりあえず僕は授業に戻るけど大丈夫?」
三郎の枕元に薬とおばちゃんに作ってもらったお粥があることを確認し、雷蔵は立ち上がる。
「…ぁ」
「どうしたの?」
何か言いたそうな三郎に雷蔵は屈んで顔を覗く。
「いや、なんでもない」
「そう?」
何か言いたそうな顔だが言わない三郎に雷蔵は首を傾げながら、大人しく寝ているようにと釘をさすと三郎は素直に頷いた。
朝食を食べている時に他のメンバーに三郎が風邪をひいたことを言うと皆が驚きを隠せない顔をしていた。
「三郎が風邪って珍しいな」
「まぁ、技術はあっても体力は無かったからな」
「また後でお見舞いに行くわ」
「うん。ありがとう」
雷蔵は微笑みながら食事を済ませ授業を受けにいった。
いつもと同じく忍術に関する授業を受けていても雷蔵はなぜか授業の内容が頭に入ってこずボーッと黒板を見つめていた。
何かが足りない。
横を見ると、いつもなら退屈そうにしながらもちゃんと授業を受ける三郎の姿があるはずなのに今はその隣は空席で違和感があった。
「…」
頬杖をしながら、三郎の席を見つめる。
朝食を食べていた時も感じた違和感。いつも隣に三郎がいたため、その三郎が居ないだけでとてもむず痒い感覚になる。
「よそ見をするな不破」
「あ、すいません」
木下先生に注意をされ雷蔵は首を左右に振り、授業に集中しようとする。だが結局同じで全く内容が頭に入ってこなかった。
「雷蔵がよそ見するなんて珍しいな」
全ての授業が終わり、委員会に向かう途中八左ヱ門に言われ苦笑する。
「考え事してたんだ」
「三郎か?」
腕を頭の後ろで組みながら八左ヱ門は雷蔵がどこか元気が無いことに気づいており、雷蔵は見破られてしまったことに再び苦笑してしまう。
「うん…なんか三郎が隣にいないだけで変な感じなんだ」
「そりゃお前たちはいつも二人でいたもんな」
「うん…まぁ、三郎がいないだけで寂しいなんてね」
「雷蔵…」
図書室に着き雷蔵は立ち止まる。
「じゃ、僕図書委員会行ってくるね」
「あ、ああ」
またね。と言い雷蔵は図書室に入っていくのを八左ヱ門は見守ると、ため息を吐きながらも八左ヱ門も自分の委員会に向かった。
「不破先輩」
「ん?」
書庫の整理をしていると、いつもなら元気で明るいきり丸が今日はどこか元気が無さそうな様子で立っていた。
「どうしたの?」
「…あのですね風邪をひいた人には何を食べさせたらいいですか?」
「え、誰か風邪ひいたの?」
三郎と同時に風邪をひく人がいるなんてスゴい偶然だなと思っていると
「昨日乱太郎が委員会中に雨の中綾部先輩の落とし穴にはまってしまって」
「さすが不運小僧…」
「それで中々抜け出すことが出来なかったので風邪ひいちゃって」
「なるほど…」
風邪をひいたときな良いものは…と考えてみる。いつもの迷い癖が発動しそうになるが、頭にあることが過った。
「病人ってどこか心細くなるから、寂しくならないように側にいてあげたらどうかな?」
「側にですか…」
なるほどと手を叩くきり丸の頭を優しく撫でてやる。
「あとは新野先生から薬を貰っておばちゃんのお粥を食べて寝たら治るさ」
「はい!」
嬉しそうに笑うきり丸に雷蔵もつられて笑ってしまう。
「あ、そういえば」
「ん?」