□呼ぶ声
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『きり丸』



もう、オレの親がその名を呼ぶことはない


大人たちが勝手に始めた戦


戦のせいで巻き込まれたオレの村

そして地図から消えたオレの村


夜、いつもと変わらないように両親と寝ていた

母と父の間に挟まれ一緒に川の字で寝ていた

お金はそこまで無かったが両親がいたらオレはなにも要らなかった


それほどオレは幼かった


だが、あの日を境にオレの人生は変わってしまった



<名を呼ぶ声>




『きり丸』

「なに父さん?」


今日必要な分の薪を取りに父と山に来ていたきり丸


『お前は大きくなったら何になりたい?』

「大きくなったら?」

う〜んと考えるきり丸を父は笑って見守っていた

「そうだなー…オレ忍者になりたい!」

『忍者に?どうしてだ?』


きり丸の意外な言葉に驚く父
きり丸が忍者になりたいとは思っていなかった


「聞いた話しなら忍者ってお給料が良いらしいんだよね。父さんたちを楽にさせたいんだ。」


『きり丸…忍者は大変だぞ?』

だがきり丸は屈託のない笑顔で続ける

「忍者になってこの村を守りたいんだオレ!!」

父は一瞬暗い顔をしたが、すぐにきり丸の好きな笑顔になっていた

『そうか!なら今より大きくなって強くならないとな!!』

大人のゴツゴツした骨ぼった手できり丸の頭を撫でる
暖かい手が気持ち良かった


『よし、母さんも待っているから帰るか!』

「うん」


木を束ね、背負い山を降りる

村に帰れば母がご飯を作って待ってくれてる


山を降り、村に続く道へと駆けていく

「父さん早く!!」

『そう急ぐなよ。』



夕焼けが村を紅く染める

だがいつもと違う明るさに見えた


「―…」

『どうしたきり丸?』

「いや、なんでもないさ。行こ」


『?ああ…』


家につくと美味しい匂いが立ち込めていた

「ただいま!」

『お帰りなさい。今ちょうどご飯が出来たところよ』

『もうお腹空いたから食べるか!』


いつもと同じように家族とご飯を食べて寝て

また明日も朝日が昇るのを待つだけだったんだ


なのに…



「…ん」


珍しく夜中にふと目が覚めたきり丸

両隣を見ると一緒に寝ていたはずの両親の姿が無かった

辺りを見渡すと、外が紅かった

「オレ、そんなに寝過ぎたっけ?」


一日中寝ていたのか?と思い外を見るため出てみた


すると真夏の暑さとは違う別の熱さがあり、とても熱かった


目の前の光景に幼いきり丸でも分かった



「…なんだよこれ」


村が焼かれていく

友達や近所の人の叫び声が響く


「あ、…父さん、母さん……」


『きり丸!!』


地獄絵図だと思えてしまうような光景に足がすくんでいると両親の声が聞こえた
きり丸は足に力が入らないが必死に両親の声の方に向いた

「母さん!父さん!」


両親は側に駆け寄ってきてきり丸を力強く抱き締めた

きり丸も力強く抱き締める

「怖かった…!!」


『ゴメンよ…』

泣いて謝る母

すると父はきり丸の肩を強く掴む

『いいかきり丸、よく聞くんだ。こどもたちは皆あの裏山に非難した。お前も裏山に行き隠れるんだ!』

「と、父さんや母さんも後から来るよね!?」


きり丸の言葉に二人はなにも言えなかった
戦えない幼い子は裏山に
戦える親は村に残る
先ほどの会合で決まったこと

『ーッ!ああ、父ちゃんも後で行く。だから先に行くんだ!』
二人はきり丸から離れ、きり丸の背中を強く押す


「父ちゃん!母さん!」

泣きじゃくるきり丸
今離れたらもう会えないような気分に陥る


『きり丸、1つ約束だ。』

「?」

『今日の晩、父さんに夢を言ってくれただろ?男ならその夢を叶えるんだぞ』

「!!」

行け!という二人の言葉にきり丸は後ろを振り返りながらも裏山に向かった


涙を拭いながら走る
自分たち村人しか分からない道を走った


すると、近くで金属同士がぶつかり合う音が聞こえた

何事かと思い、茂みに身を置き屈みながらその音のする場所に向かう

「?」


暗くてよく見えなかったが、暗闇に目が慣れてきたときには姿が分かった

そこには鎧を着た武士と黒の装束が纏った忍者が刀と苦無で戦っていた

とんでもない場面に来てしまったのだ

頂上とは離れた場所なのでこどもたちは大丈夫だろう

だがこの危機をどう乗り越えるか悩む


バレないようにその場から立ち去ろうとした


パキッ…


後ろに下がるとき木の枝を踏んでしまった
しまったと思った時にはもう遅く、二人の視線はこちらを向いていた


「誰だ!そこにいるのは!!」
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