□女装
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「う〜ん」


授業が終わり、陽も暮れ始めていた

今日の授業で来週は女装をすると言われた
だが兵助は女装が苦手なのだ
どうしたものか…と悩む

三郎に頼むのも手だが、絶対からかいながらするので真面目に出来ないのが見えている

仙蔵はなんだか頼みにくいと却下
他の先輩はあまり考えたくない

悩んでいても仕方がないので、まだ6年生で女装が出来そうな伊作に頼むことにした

「すいません、善法寺先輩いますか」


まずはよく居るであろう保健室に行ってみた

「伊作先輩なら先ほど出ていきました」


保健室には伊作はおらず、変わりに乱太郎が包帯などの整理をしていた

「そうか…先輩は何処に行ったか分かるか?」

「そういえば6年の長屋に今から煎じるはずの薬を忘れ物をしたらしいので、長屋にいると思いますよ」


「ありがとう。そうか長屋か…」

乱太郎は作業する手を止め、兵助の方を見る

「暫くしたらここに戻って来ると思いますのでお待ちになられたらどうでしょうか?」

乱太郎の提案に頷き、兵助は座り込んだ

包帯を仕舞うところが高い棚の上部らしく、乱太郎は背伸びをしながらも必死に仕舞おうと思うが中々届かなかった
兵助は立ち上がり、包帯を乱太郎の手から取った

「ここで良いのか?」

「あ、はい」

5年生の兵助にとっては簡単に届く場所だったので変わりに仕舞った

「ありがとうございます」

「かまわないさ。他に片づけるやつはないか?」

「なら、これをそこの棚に片づけてもらえないでしょうか?」

その後も乱太郎の手伝いをして兵助は時間を潰した


一段落済んだのか乱太郎は兵助にお茶を出した

「ありがとう」

「いえ、こちらこそ手伝ってくださり、ありがとうございます。おかげで早く終わりました」

乱太郎からお茶を受けとると乱太郎は兵助の目の前に対面するように座った

「どうした?」

「いえ、久々知先輩は伊作先輩になんの用なんですか?」

「あ、あー…」

兵助は暫く考えこんでしまう。乱太郎になぜ伊作に用があるかを言うべきか悩んだ。
けど乱太郎ならば別に言いふらされるようなこともない。と思い、話し始めた

「今度の授業で女装をするのだが、私は中々女装が苦手で…それで伊作先輩に教えてもらおうと思ってね」

「そうなんですか。同じ学年の変装名人の鉢屋三郎先輩は?」

兵助はため息をつく
「いや…三郎の場合絶対面白がって教えてくれないんだよ」

「あー、確かに三郎先輩意地悪そうですもんね…」

乱太郎は苦笑するしか無かった
三郎は面白いことがあったら真面目にせず意地悪なことをするのだ
寧ろ腹を抱えて大笑いんする
それが目に見えていたのだ

「なら、女装が上手な立花仙蔵先輩は?」

「………」


すると兵助は下をうつ向き黙りこんだので乱太郎は焦り始めた

「………正直なことを言うぞ?」

「え?」

「誰にも言うなよ?」

「は、はい!」

釘をさすように言われた
その時の兵助の目は怖く、これは黙っておかないと…と思った


「実は私、立花先輩が苦手なんだ…」

「え?」

「なんというか…近寄りがたい存在って感じかな?」

「ああ…それは分かりますね。なんだか近づくなと言うような雰囲気ですもんね」

仙蔵は気品があるようで年上というのが分からされるような雰囲気を醸し出しているので話しかけるのも勇気がいるのだ

「そうそう。だからまだ近寄れて得意そうな伊作先輩に頼もうと思ってな」

「確かに伊作先輩なら適任だと思いますね」
お茶を啜りながら暫くの間時間を潰している、廊下の遠くの方から足音が一人分聞こえた


「先輩戻ってきたみたいだな」

「え。そうなんですか?」


兵助に言われるまで気づかなかった乱太郎だが、足音が近くにまで来るとやっと人がこちらに向かって来ていることが分かった


保健室の戸がゆっくりと開かれ、そこにはボロボロの伊作が手元に紙袋を持ち、立っていた


「あれ?久々知君もいたの?」

「あ、はい。…それよりどうしたんですかその怪我?」


伊作は普段のように話していたので今気付いたように傷を見渡す

「コレ?いやー、4年生の綾部君の蛸壺に落ちちゃってね。もう慣れたから」

笑顔でいう伊作を見て乱太郎も慌てることなく棚から薬箱を取り出し、手当ての用意をする

「大丈夫なんですか?」

「ん。大丈夫だよ!日常茶飯事だから慣れたしね」


「けど、怪我することには慣れても痛みは慣れないと思いますので気をつけてくださいね」

伊作は目を見開いたが、すぐにいつもの笑顔に戻った

「ありがとう。そういえば何か用があってココにいるんではないのかい?」

兵助は思い出したように、怪我の手当てをしている伊作になぜ来たのかを説明し始めた
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