□2話
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伊作は自分の長屋に戻ると、灯りは付いているものの、相部屋の留三郎はすでに布団の中に入って丸まっていた

「あれ、もう寝たんだ…明日も早いから僕も寝るか」

伊作は薬品の片付けをし、布団を敷き寝に入る


瞼を閉じる


「……」


留三郎の好きな人

それは僕の恋人

それを言うべきなのか言わないべきなのか


頭の中で渦を巻いて混乱する



もし、言ったら君はどんな反応をするのだろうか
「ん…」


朝、伊作は目を覚まし留三郎の姿を探す
だが、どこにもいないのだ

「僕そんなに寝ていたのかな?」


寝坊したのだと思い急いで装束に着替え、頭巾をしながら戸を開けると、まだ夜が明けたばかりな時刻だった

「あれ?なら、もしかして留三郎は鍛練に行ったのかな?」


こんなに朝早くから?と思いながらも朝御飯まで時間があるので昨日出来なかった分の薬を煎じ始めた


やはり言うべきか言わないべきなのか悩む


「困ったなー」

「なにが困るんだ?」


呟くと後ろから声が聞こえたので、後ろを振り向く

「留三郎!」

「また薬を煎じていたのか」

「あ、うん…」


いつもの表情でいつものように自分に声をかけてくる留三郎を見ると、伊作は少し罪悪感を覚える。

「あのさ、留三郎…」

伊作は拳を握りしめ留三郎に事実を言おうとする

「どうした伊作?あ、悪い少しオレ席外すわ。会うやつがいるんだ。今もちょっとソイツに渡すものを取りに来ただけなんだ」

「そ、そう…」

「急用な用事か?」

「いや…そんなことは無いよ」


そうか。と言い留三郎は自分の棚から何かを取りだし、部屋から出ていった
伊作はその後言えなかったことを悔やんでいた

「また、いう機会あるかな?」

誰に言ったのではない嘆きは自分の中で返事を出す


薬を煎じていた手がまた動き出す

早く言わなければならない。だけど、なかなか言えない苦しさが胸を締め付ける



その後留三郎は戻っては来なかったので伊作は一人食堂へと向かう

「ハァ…」


何度目か分からないため息が溢れる
食堂に着くと、留三郎の姿があった
先に自分のご飯を取っていたくれたように留三郎の前の席には1つ朝食が用意されていた


「あ、留三郎…」

伊作に気付いた留三郎は食事に手をつけるのを止め、伊作に前に座るように促す

「もう来ると思って勝手に取ってきたんだが、早く食べないと冷めるぞ」

「あ、うん」


伊作は箸を取りお膳に手を伸ばす


「やっぱり食堂のオバチャンのご飯は美味いよな」

「うん…」

「どうした?朝からずっとテンション低いが」

「うーん、ちょっと考え事してて寝不足なんだよね」

「そうか、なら今日は早めに寝れると良いな」

優しい留三郎の言葉に涙が出そうになる
必死に下を向き涙を堪える

「あのさ、留三郎!」

「どうした?」

キョトンとした表情に、留三郎に本当の事を言うべきか戸惑う

「今日の授業ってなんだっけ?」

「え、あ…なんだっけ?ゴメン忘れちゃったや」

「そうか」

ご飯に手をつけるがなかなか進まない
とても気まずい空気が自分だけ纏って剥がれない気がする

「そういや今日は保健室で寝るのか?」

「うん。まだ薬煎じている途中だから今日は保健室で寝るよ」

「分かった」
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