†TEMPETE†

□拾われた少年
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「あ…雨」


窓を見つめ、二十歳近い青年が声を漏らす。
外は激しく雨が降っていた。
いつから降り出したのかと、不思議に思う。
こんなに激しく降っているのに、と。


「窓開けっ放しだι」


ふと思い出し、少年は慌てる。
開けっ放しなのは、部屋を一つ挟むキッチンの方だ。
濡れて困るものはないものの、吹き込むのはたまらない。

急いで向かう。
部屋を一つ突っ切り、キッチンのドアを開ける。
そういえば、ドアも開けっ放しだったと気付く青年だったが……。

広がる光景に、思わず息を呑んでしまう。
目に飛び込んだのは…







「…獣人……?」
「!!」


耳と尻尾を生やした、血だらけの獣人だった。
言葉を失ってしまう。


「な…お前っ」
「う゛ー…」


どこから、それは聞かずともすぐに理解する。
キッチンのドアが、血で汚れていたからだ。
それよりも、その血が青年の眉を寄らせる。
普通じゃ考えられない怪我。
獣人自体に、さほど驚きはしない。


「何してる…」
「う゛ー…っ」


犬や猫が威嚇をするときのように、腰を高く上げる。
出る声は掠れていた。
それどころか、服すらちゃんと纏っていない。
傷口も、凄まじいほど深く、死にそうなほどだ。


「う゛ー…」
「怪我してんぞ?」
「ぅー…」
「おい」


呼びかけには、反応しない。
ただただ、威嚇をする。
けれど、それは限界に近いらしく身体が今にも崩れそうだった。
見れば、髪はびっしょりだ。

ワケがわからないが、青年は獣人の少年を追い出そうとする。
襲われたのでは、命が危うい。
…が、逃がしてしまっては他の人が襲われるやもしれないと悟る。

取り敢えず、近くにあったナイフを手にするのだった。


「警察か…やっぱり」
「…!?」


つぶやく青年の言葉よりも、少年は手にあるナイフに反応する。
横切るのは、実験室でされた痛々しい過去。
あれで肌を切り裂かれ、死ぬほど痛い経験をしたのを覚えている。

また……?
やっと出れた外でも?

少年は震え出す。ナイフから目を逸らし、下を向いて。

掠れた声は、もう出なくなってしまった。
恐怖、それもあるだろうが、絶望と現実が睦みあって、気がおかしくなりそうだった。

まだ、自分の望みは手に取れなくて…。
身体中が、焼けるように痛くて…。
何も、手に出来なくて。

自分は何なのだろうか?

自分なのに、何一つ知らない。

気付けば、何もない。

……この気持ちも、知らない。







少年はへたり込む。
疲れた、と。
自分は今から、青年の持つナイフで殺される。
こんなにも痛いのに、まだー…。

そう思うと、少年の目からはいつのまにか涙が伝う。
無意味…そう理解しても。



「お前……」



青年の声に、スッと力を振り絞り近付く。
血は、まだ流れる。


「…くぅー…ん」


言葉はわからない。
けれど、その声は覚悟。
一瞬でどうか…。

少年は青年の足下まで来ると、上目遣いで見上げる。
少年とは違う、綺麗な顔だった。





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